備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: ToxCast/Tox21によるin vivoの生態毒性予測の可能性

Palomares IMR, Bone AJ, 2024, Predictive value of the ToxCast/Tox21 high throughput toxicity screening data for approximating in vivo ecotoxicity endpoints and ecotoxicological risk in eco-surveillance applications, Sci Total Environ 169783.

Schaupp et al. (2023) と同じようにin vitroのハイスループットスクリーニング試験(HTS)をin vivoの生態毒性予測に活かせるかというモチベーションの論文。

非常にざっくり書くと、Schaupp et al. (2023) と同じ目的で、異なるデータベース・解析方法で再検討して、「ToxCastと生態毒性のin vivo毒性値は相関がほとんどない」ことを述べています。なおin vivoのデータとして使用されたのは、EnviroToxデータベースの毒性値やPosthumaのSSD(Species sensitivity distribution)の慢性HC5、NORMANデータベースのPNEC、USEPAの農薬ベンチマークの4種。一方in vitroの毒性値にはACC(Activity concentration at cut-off)というLOEC的なものとAC50を使用。全てのアッセイを対象にするだけでなく、ZebrafishのFET試験や、cytotoxiciyに関するアッセイだけを解析するなど、ToxCastの解析法もいくつか検討しています。

また、神経毒性物質やAChE阻害物はin vivoの毒性値の方が低い(=conservative)ことや、逆に溶媒や界面活性剤ではin vivoの毒性値の方が高いことも示されています。前者は、魚類の胚試験も含むin vitroの弱点として良く言われていることですね。溶媒などについては、これらの毒性が特異的ではない、narcoticなものだからではないかと考察されています。

さらに、河川の化学物質モニタリングデータ(Waterbase Water Quality ICM database)と併せて、ToxCastのデータでリスクの高い物質を優先順位付けするのは妥当なのかどうかを検討しています。上に書いたようなことから、正直妥当とは言い切れないわけですが。優先順位付けは例えばCorsi et al. (2019) あたりで行われています。

 

Schaupp et al. (2023) と一緒に考えると、現状のin vitroデータから直接的に生態毒性の強さを知ることは上手くいかないと分かります。今後は、生態毒性向けのin vitroデータを蓄積していくことや、現状の哺乳類ベースのin vitroデータを生態毒性向けに適切に変換すること(IVIVE)が重要なのでしょう*1。生態毒性のin vitroでは例えばニジマスのエラ細胞試験が近年OECDのテストガイドライン化され、注目されていますね。

 

 

*1:このためにはこの論文のような検討を少し発展させて、MoAごとにもう少し詳細に見るとか、それぞれの毒性値の分布を詳細に見るとか、できることはあるかも。