備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 皮脂や糞便のmRNAシーケンス解析

尿に含まれるRNAの話を以前書きました

水生生物の環境RNAという観点では、尿の他に皮膚と糞も重要なソースだろうと思い、今度は皮膚と糞のmRNAをシーケンスする話。これらはヒトの研究です。どちらもAmpliSeqという、PCRでターゲット遺伝子を増幅してからシーケンスする手法を使用しています。Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression kit。

技術的なところに興味があり、読みました。

 

Inoue T, Kuwano T, Uehara Y, Yano M, Oya N, Takada N, Tanaka S, Ueda Y, Hachiya A, Takahashi Y, Ota N, Murase T, 2022, Non-invasive human skin transcriptome analysis using mRNA in skin surface lipids, Communications Biology 5(1): 215.

花王の論文。皮脂(Skin surface lipids; SSLs) を顔からワイプして回収。そこに含まれるRNAを抽出し、2万以上(合ってる?)のヒト遺伝子をAmpliSeqでシーケンス。

AmpliSeqを用いて非侵襲的に皮膚関連の診断を行えるかどうか、の手法確立論文だと思いますが、定量PCRとの比較やreplicate間の比較、アトピー性皮膚炎の人と健常者の人とのAmpliSeqプロファイル比較などを実施しています。面白かったのは、SSLs+AmpliSeqと起源と思われる部位(表皮epidermis、皮膚腺sebaceous glandsなどをレーザーで切り取り?)との比較を行っている点。結果、表皮と皮膚腺と毛包が主な起源ではないかとのこと。

あと地味にRNaseまで見ているのが面白いです。RNaseがあるけど、脂の存在や低めのpHのおかげか、あまりRNAが分解されていないのも面白い。ただAmpliSeqのライブラリ調製後にAMPure beadsで精製すると成功確率*が上がる、という技術的な知見が一番参考になったかも。マッピング率は平均84%(健常者)または92%(アトピー性皮膚炎)でした。これは下のSchlabergら(2018)に比べると高いですね。
なお成功確率についての表現は"Use of the optimized protocol (by standardizing conditions of reverse transcription and target amplification, and adding a purification step after target amplification) led to an improvement in library production efficiency, and the transcriptome sequencing resulted in a success rate of 95%."ですが、success rateって何?ローディングが上手くできたチップの割合とか?

詳細は読みこんでいませんが、大変面白かったです。

 

 

Schlaberg R, Barrett A, Edes K, Graves M, Paul L, Rychert J, ... Leung DT, 2018, Fecal host transcriptomics for non-invasive human mucosal immune profiling: proof of concept in Clostridium difficile infection, Pathogens Immunity 3(2): 164.

Clostridium difficile感染症CDI)。上のInoueら(2022)と同様にAmpliSeqを使用して、ヒトの糞便のmRNA解析を行っています。

ヒトのアクチンとバクテリアの16S rRNAの逆転写-定量PCRを実施して、その比率が>10^(-4) 以上のサンプル(すなわちヒトmRNAの相対量が多いサンプル)のみAmpliSeqに回しています。平均して58.5%のリードがヒト遺伝子にマッピングされ、マッピング率はactin/16Sの比率に比例していました。こちらの論文では"Amplified libraries were eluted in 30 uL of low TE buffer after purification"と書いてあるもののその精製の詳細は不明。

あとヒト遺伝子へのマッピング率はTaxonomerというツールを使っています。