「乱交の生物学」に続いて性の進化についての本。有名な「銃・病原菌・鉄」の著者ジャレドダイアモンドの著作です。さすが、かなり読みやすかったです。
章立ては下の通り。
1. 人間の奇妙な性生活
2. 男と女の利害対立
3. なぜ男は授乳しないのか?
4. セックスはなぜ楽しいか?
5. 男はなんの役に立つか?
6. 少なく産めば、たくさん育つ
7. セックスアピールの真実
2章のオスの授乳について。実は哺乳類のオスは、生理学的には乳汁分泌ができるといいます。ホルモンを投与されればオスでも乳汁を分泌するし、ホルモンを投与されなくとも飢餓状態からの回復期にはホルモンを制御する肝臓の働きが低下しているために乳汁を分泌したという日本軍捕虜収容所での報告例があるそうです。また十代の少年が自分の乳頭を刺激した結果、乳汁分泌を起こすのは珍しくない、そうです。
ではなぜオスは授乳しないのか。それは生理学的な問題ではなく、進化的な問題、オスメス間の闘争の結果、性的葛藤の結果です。体内受精する哺乳類は、出産までにメスがオスより子どもに投資しているので、そのままメスが授乳すなわち子育てをする方が進化的に合理的な選択なわけです。
4章のなぜセックスは楽しいか。内容を正確に反映させるなら、この章のタイトルはなぜ排卵は隠されているのか、でしょうか。子供を産む目的以外でセックスをできるのは、オスだけでなくメス自身にも排卵が隠されるから。ではなぜ排卵が隠されているのか。
排卵が隠されたのは、猿人がまだ乱婚型で暮らしていた時のこと。乱婚型の社会で排卵が明らかだと、オスは群れの中のどの子どもが自分の子どもか分かるため、自分の子ども以外をためらいなく殺してしまう。そこでメスは排卵を隠ぺいするよう進化させ、多くのオスと交尾して、多くのオスに生まれた子供が自分の子供であると認識させ、子殺しの生じる確率を下げたというのです。
5章。男は何の役に立つか。パラグアイのアチェ族の話が面白い。アチェは狩猟採集民で、男はイノシシやシカを、女は果実や昆虫を採取します。イノシシやシカはカロリー量こそ大きいものの、獲得できる頻度は少ないため、実は女の獲得する食物量よりも平均カロリー量はずっと少ないそうです。しかも男は狩りで得た食物を、自分の家族だけでなく部族全体に分け与えます。
では男がわざわざ狩りをするのはなぜか。それは、大型動物を狩って部族に利益をもたらすと、婚外交渉を有利に進められるからという驚きの理由です。要は、狩猟能力が女へのセックスアピールになっているため、狩りが上手いほどモテて、子どもを多く残せるわけです。これはあくまで仮説レベルですが、現状一番もっともらしい仮説のようです。この仮説が正しければ、アチェ族の男が狩りをするのは家族とか妻とかのためではなく、自分の遺伝子のためなのです。
著者は、このような男の傾向は必ずしも現代社会に適用できるものではない、と断っていますが、男としては心当たりがあり申し訳なく感じる話。