備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 核DNAにおけるミトコンドリア様配列

ある生物種のゲノム解析をしていて。

解読したミトコンドリアゲノム配列が、同じ種の既知のミトコンドリアcytochrome c oxidase subunit I(COI)配列と大きく異なっていました。

始めは、既存の報告で隠蔽種の存在が示唆されていたので、自分の読んだ配列と既往報告との違いもそういうことかなと考えてましたが、少し検証してみると別の可能性の方が高そうだと思えてきました。

既往報告はユニバーサルプライマー(FolmerらのHCO・LCO)でCOI配列を増幅していますが、その手法ではミトコンドリアDNAだけでなく核DNA内の類似の配列を増やしてしまうことがあるそうです。

 

 

「numtの同時増幅によってDNAバーコーディングは生物種数を過大評価する

Song H, Buhay JE, Whiting MF, Crandall KA, 2008, Many species in one: DNA barcoding overestimates the number of species when nuclear mitochondrial pseudogenes are coamplified, PNAS 105 (36): 13486-13491.

核内ミトコンドリア様配列(nuclear mitchondrial pseudogenes; numt)についての総説?。numtはミトコンドリア配列と変異速度が異なるため、COIのnumtをnumtと知らずにDNAバーコーディングすると、種内変異の大きさを過大評価してしまう、という注意喚起。

バッタとザリガニを再解析。ザリガニについては、numtの多くが配列の途中に終止コドンを持っているために翻訳されない偽遺伝子だと分かるが、バッタについてはそうではない。終止コドンもないし、ミトコンドリアのCOIとほぼ変異がないので、すぐにnumtだと判断できません。

ではこのバッタのようにわかりにくい場合はどうするか。numtと知らずに解析することを防ぐ方策として、逆転写PCRミトコンドリアのenrichment、long-PCRなどが挙げられています。この論文は2008年なので、今ならNGSでのミトコドリア全長解読も有力な手段でしょうか。

(2019.12.11 追記  バッタの場合偽遺伝子ではなくheteroplasmyかもしれない。) 

 

「COI様配列は分子系統学・DNAバーコーディングにおける問題になっている

Buhay JE, 2009, “COI-like” sequences are becoming problematic in molecular systematic and DNA barcoding studies, J Crustacean Biol 29(1): 96-110.

上と同じ様な啓蒙論文。あまりちゃんと読んでません。

クローニングせずにPCR産物をシーケンスした時、numtが含まれていれば、numt配列と真のミトコンドリア配列が混ざるので汚いクロマトになるから、ちゃんとクロマトをチェックしろよ、というnumt関係なくとも至極もっともな話など。

 

 

「カイアシ類におけるCOI偽遺伝子の存在

Machida RJ, Lin YY, 2017, Occurrence of mitochondrial CO1 pseudogenes in Neocalanus plumchrus (Crustacea: Copepoda): Hybridization indicated by recombined nuclear mitochondrial pseudogenes, PLoS One, 12 (2): e0172710.

ミトコンドリア配列を対象にしたPCRを、ゲノムDNAとcDNAに行って変異解析をしている論文。cDNAにおける変異は小さく、gDNAにおける変異は大きい。一個体のクローンの中でも変異(多型)が見つかっている。cDNAはミトコンドリアDNA配列で、gDNAはミトコンドリアと核DNA配列ですね。

また、異なる2種間の交配の結果生じた核内DNAのキメラ配列が示されていて面白いです。

 

 

無脊椎動物DNAバーコーディングの誤りの事例:cox1プライマーはユニバーサル過ぎ?

Mioduchowska M, Czyż MJ, Gołdyn B, Kur J, Sell J, 2018, Instances of erroneous DNA barcoding of metazoan invertebrates: Are universal cox1 gene primers too “universal”?, PLoS One, 13 (6): e0199609.

ちょっと上記までの論文と話しは違うが、ユニバーサルプライマーを使う際の注意点という意味でこの論文もメモ。

ミトコンドリア配列を対象Folmerらのプライマー(HCO・LCO)は、バクテリアの配列も増やしてしまうため、要注意。データベースの中で甲殻類と書かれていてもバクテリア配列の場合がある。