備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: omics technologyとAOP

AOP(Adverse Outcome Pathways)の構築に、網羅的な生物応答の解析技術(omics)を用いて何ができるかというお話し。omicsの中でも特にtranscriptomicsについて。

 

「化学物質リスク評価へAOPを適用するうえでomicsの果たす役割

Brockmeier EK, Hodges G, Hutchinson TH, Butler E, Hecker M, Tollefsen KE, Garcia-Reyero N, Kille P, Becker D, Chipman K, Colbourne J, Collette TW, Cossins A, Cronin M, Graystock P, Gutsell S, Knapen D, Katsiadaki I, Lange A, Marshall S, Owen SF, Perkins EJ, Plaistow S, Schroeder A, Taylor D, Viant M, Ankley G, Falciani F, 2017, The role of omics in the application of adverse outcome pathways for chemical risk assessment, Toxicol Sci 158: 252-262.

2014年リバプール大学でのワークショップをもとに書かれた総説。

現状ではomicsは生態リスクの評価をおこなうに十分な証拠を提供できていない("omics datasets cannot provide sufficient evidence to characterize risk within ERA")とか、omicsが既存の手法を完全に代替することはない(we ... do not fee that they will completely replace all approaches used in traditional risk assessments)とか、パラダイムシフトを生じさせるほどではない("the generation of large numbers of high-content molecular-level datasets over the past 10years has not inherently caused a ‘paradigm shift’ in our understanding of mechanistic toxicology")とか、omicsの限界点に触れていて好感触。他に挙げられているomicsの課題は、標準法がないこととインフォマティクスの手法が確立してないこと。この辺りはいつもの議論。

omicsを使うことによって 、既知のパスウェイを確認するだけではなく、新規パスウェイを発見することもできる例としてAntczakら(2015)が引用されてます。

   

 

「トランスクリプトーム解析によるエマメクチン安息香酸塩の急性毒性メカニズム洞察

Song Y, Rundberget JT, Evenseth LM, Xie L, Gomes T, Høgåsen T, Iguchi T, Tollefsen KE, 2016, Whole-organism transcriptomic analysis provides mechanistic insight into the acute toxicity of emamectin benzoate in Daphnia magna, Environ Sci Technol 50(21):11994-12003.

AOP構築に至るまでにomics解析をどう活用できるかの事例として読みました。この論文で提唱されたメカニズムはAOP wikiにも仮登録されてます。

既往文献から導き出せるAOP仮説をマイクロアレイ解析で検証してみたという印象。あくまでomicsは確認作業っぽい。

エクジステロイド受容体(EcR)に関するin vitro試験の結果が、単純なomicsだけではAOP構築できないことを示している気がします。エマメクチン安息香酸(EMB)に曝露させるとDaphniaのEcR遺伝子は活性化されるが、in vitro試験ではそのような反応は見られない。これは、EcRシグナル経路がEMB曝露に対する応答の下流にあるから。

因果関係を踏まえてAOPを構築するためには、key event間の関係をこういう風に一つ一つ検証していかないとダメなんですね。当たり前のことでしょうが…。自分にはin vitro試験の必要性を感じさせる事例論文として面白かったです。レポーターアッセイなどin vitroでなくともノックアウト生物を簡単に作れれば良いのかもしれない。

 

 

「生理学を理解するツールとしての機能ゲノミクスの多層式データ統合

Davidsen PK, Turan N, Egginton S, Falciani F, 2015, Multilevel functional genomics data integration as a tool for understanding physiology: a network biology perspective, J Applied Physiol 120(3):297-309.

ネットワーク分析に関して上のBrockmeierら (2017) で引用されていた総説。FF氏が文章を書いたところはなんとなく分かってしまう。

前半の総説部分は、データからネットワークを推定しようという話。非線形のデータにも使える相互情報量に基づいたARACNEでの推定が良いよ、という話など。ネットワーク推定に生物replicatesは>50~100必要とのこと。

 

 

「ゼブラフィッシュ胚を用いた環境毒性評価のための縮小トランスクリプトーム

Wang P, Xia P, Yang J, Wang Z, Peng Y, Shi W, Zhang X, 2017, A reduced transcriptome approach to assess environmental toxicants using zebrafish embryo test, Environ Sci Technol 52: 821-830.

ちゃんと読んでないしAOPともそれほど関係ありませんが、ampliseqを生態毒性の研究に用いた例としてメモ。omicsは標準試験法がないとのことでしたが、マイクロアレイに代わってampliseqが標準法になるかも。遺伝子ごとに用量応答反応のモデル(直線・シグモイド・U字型)を当てはめ、どの濃度範囲で応答するかを調べて、そのEffect Concentrationと生物学的機能とを絡めて議論しているのが面白いです。このETCの論文が引用されてます。k-meansクラスター法で同様の議論をしている論文は多いですが、この論文のアプローチはなんとなく新鮮でした。

 

(追記 2018.03.23)

Leung KM, 2017, Joining the dots between omics and environmental management, Integr Environ Assess Manag 14: 169-173.

IEAMのBrief Communication。あんまり真新しい話はない。