読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

最近読んだ論文のメモ: 汚染と遺伝的多様性・野外集団とlab集団の感受性の違い

論文 AFLP 生態毒性 分子生物学 遺伝

汚染と遺伝的多様性、汚染と適応adaptation(遺伝的な変化)あるいは順応acclimation(非遺伝的で可逆的な変化)について。

 

北極海ヨコエビ集団の遺伝的多様性レジリエンスに関連した局所的な汚染」

Bach L., and Dahllöf I., 2012, Local contamination in relation to population genetic diversity and resilience of an arctic marine amphipod, Aquat.Toxicol., 114, 58-66.  

次の3つの仮説を検証してます。すなわち、汚染地域の集団は  i) 遺伝的多様性が低い、 ii) けれどもその地域に存在する汚染物質に対しては耐性を獲得している、 iii) とはいっても、遺伝的多様性が低いので、別のストレス要因には弱い(= lower resilience)。遺伝的多様性はAFLPで調べてます。

上記の研究コンセプトが面白いです。レジリエンスという概念(というか言葉?)を毒性試験に持ち込んでいる例は初めて見ました。

結果は、仮説をあまりきれいに支持していませんでした(特に上記の仮説i) )。2007年は汚染地域の方が参照地域より確かに集団内の遺伝的多様性は低いのですが、2008年になると逆転して汚染地域の遺伝的多様性の方が高くなってます。移入migrationが原因ではなく、突然変異の影響ではないかと考察されてますが、どうなんでしょう。

あと少し驚いたのが集団間の遺伝子の類似度に関して、2007年と2008年の差の方が、同年における地域間の差よりも大きいということです。非汚染地域も含めて。遺伝子の類似度って1年間でそれほど変わるものなんですね。このあたりの話は全然詳しくないのですが、感覚的に少し信じられないので、遺伝子類似度測定の手法が再現性良くできているのか少し疑ってしまいます。複数ヨコエビを除外しているけれど、その基準も不明瞭ですし…。

 

他にも驚いたのが、野外ヨコエビの採集。トラップを仕掛けて1000匹ほど一気に取れるという…。先輩からはヨコエビを採ってくるのに1日がけですごく苦労したという話を聞いていたのでびっくりでした。

 

 

ピレスロイド系殺虫剤に対する感受性は野外集団とlab集団で異なる」

Clark S.L., Ogle R.S., Gantner A., Hall L.W., Mitchell G., Giddings J., McCoole M., Dobbs M., Henry K. and Valenti T., 2015, Comparative sensitivity of field and laboratory populations of Hyalella azteca to the pyrethroid insecticides bifenthrin and cypermethrin, Environ. Toxicol. Chem., 34(10), 2250-2262. 

 labで継代飼育されているヨコエビは、野外集団とは別種レベルまで種分化しているという話がありましたが、lab個体に有害影響が出るレベルのピレスロイド系殺虫剤が見られる地域でも野生の集団が存続しているそうです。それを踏まえて、lab集団と野外集団のピレスロイド系殺虫剤に対する感受性の違いを比較した研究。

LC50の開きが大きくて300倍もあるという結果は驚き。野外集団をlabに連れてきて継代飼育すると感受性が増すというのが面白い。

 

この論文に対して、反論が出てます。Clarkら (2015) はもともとWestonら (2013) がH. aztecaでおこなった研究の延長上にあるようで、そのWestonらが反論してきたみたいです。

Weston D., Poynton H., Lydy M. and Wellborn G., 2015, Adaptation, not acclimation, is the likely mechanism for reduced sensitivity of some wild Hyalella populations to pyrethroid insecticides, Environ. Toxicol. Chem., 34(10), 2188-2190.  

いわく順応ではなく適応こそ感受性変化の原因だと。若干いちゃもんに思える箇所もありますが(そもそもClarkら  (2015) は順応が原因だと強く主張していないし)、面白かったです。

 

この反論に対する再反論も。

Clark S.L. et al., 2015, The author's reply, Environ. Toxicol. Chem., 34(10), 2191-2193.  

Westonら (2013) を読んでみた方が良いかもしれないです。耐性遺伝子を探るなど、メカニズムベースで調べています。