備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: ヨコエビの曝露試験による環境底質の汚染評価

急性致死影響が出ないレベルの汚染底質を主な対象として、ヨコエビの曝露試験を実施した論文たち。古典論文多め。

 

「非汚染底質におけるヨコエビ二枚貝の成長

Nipper M.G. and Roper D.S., 1995, Growth of an amphipod and a bivalve in uncontaminated sediments: Implications for chronic toxicity assessments, Mar. Pollut. Bull., 31 (4), 424-430.

非汚染地域から採取した地点の底泥2種、泥タイプと砂タイプとを混合して10~30日間の生存試験を実施した研究。ヨコエビは海産のChaetocorophium cf. lucasi を使用。

砂タイプの底質の比率が増すと生存率、成長率が低下したという結果。ただし底質は2種類しか用いてないので、粒径そのものの影響か有機含量による影響か不明。砂タイプの底質はTOC 0.12~0.27%しかないので、おそらく成長に必要な栄養が不足していたのではないかと思いましたが(餌は別に投与しているが)、まあ結構適当な論文。

  

H. aztecaを用いた底質毒性試験における非致死エンドポイントの利用

Ingersoll C.G., Brunson E.L., Dwyer F.J., Hardesty D.K. and Kemble N.E., 1998, Use of sublethal endpoints in sediment toxicity tests with the amphipod Hyalella azteca, Environ. Toxicol. Chem., 17 (8), 1508-1523.

たぶん淡水産ヨコエビHyalella aztecaを用いたEPAの慢性試験標準法の元になった論文。論文の中心部分は読み飛ばし、discussionの後半部分(Table 8あたり)のみを読みました。

環境底質を対象に14日間の曝露試験を実施したところ、4%の底質で生存・成長に影響あり、20%の底質で生存のみ影響あり、16%の底質で成長のみ影響ありだったそうです。28日間の曝露試験でも同様の結果。成長の方が常にsensitiveというわけでもない。

14日間の成長阻害が28日間の致死や繁殖阻害の予測に使えるかどうか知りたかったのですが、その関係についての記載はありませんでした。

  

H. aztecaを用いた10日間底質毒性試験:成長に関するエンドポイントの比較

Steevens J.A. and Benson W.H., 1998, Hyalella azteca 10‐day sediment toxicity test: Comparison of growth measurement endpoints, Environ. Toxicol. Water Quality, 13 (3), 243-248.

すごいシンプルな論文。3つの底質に10日間H. aztecaを曝露させて、体長と乾燥重量を測定したもの。それぞれの検出力とminimum detectable differenceを計算してます。そもそもH. aztecaは0.01 gほどで軽いから、乾燥重量より体長を指標にしようというのが結論でした。

 

H. azteca 10日試験とバクテリア発光試験とを用いた人工湿地の毒性評価

Steevens J.A., Vansal S.S., Kallies K.W., Knight S.S., Cooper, C.M., and Benson, W.H., 1998, Toxicological evaluation of constructed wetland habitat sediments utilizing Hyalella azteca 10-day sediment toxicity test and bacterial bioluminescence, Chemosphere, 36(15), 3167-3180.

数地点の環境底質を年6回、発光バクテリアH. aztecaで毒性評価した研究。発光バクテリアでは底質の保存期間(4°C)を0~60日間に変えて試験もしてます。保存期間が長くなるほど毒性は減少してます。

 

「汽水域底質の急性毒性

Dewitt T.H., Swartz R.C. and Lamberson J.O., 1989, Measuring the acute toxicity of estuarine sediments, Environ. Toxicol. Chem., 8 (11), 1035-1048.

汽水産ヨコエビEohaustorius estuariusが汽水域底質の毒性試験種として適当かを調べた論文。対象としてRhepoxynius abroniusHyalella azteca(淡水)も使用されてます。異なる塩分下(2-28 ppt)でのフルオランテンの10d-LC50を求めたり、汚染底質でのdose response関係を得たり色々してます。

今回特に注目したのは、Puget Soundというところの42地点から採取した「非汚染底質」で実施した10日間の生存試験の話。全サンプルの平均生存率は97%で、全体的には確かに「非汚染底質」なのですが、中には生存率50%を切ったり10%というサンプルもあります。生存率の低かったサンプルは、底質の細粒分含有率が高いものでした。そこでこの論文では、粒子が細かいと生存率が低下するという筋書きを書いてるのですが、正直すんなりと納得はできませんでした。細粒含有率が高いほど、有害物質濃度も高いのでその影響を考えないわけにはいかないでしょう。粒径分布に対する感受性を見たければ、精製+サイズ分画した人工底質を使ってみるべきでは。

 

 (追記2017.09.23)

「サンタモニカ・ベイにおける汽水域底質の急性毒性評価

Greenstein D, Bay S, Jirik A, Brown J, Alexander C. 2003. Toxicity assessment of sediment cores from Santa Monica Bay, California. Mar Environ Res 56: 277-297.

汽水産ヨコエビGrandidierella japonicaとウニStrongylocentrotus purpuratusを用いて、サンタモニカ・ベイの底質コアサンプルを年代ごとに区切って急性曝露試験をした論文。ヨコエビもウニも、それほど急性毒性は示さず。例えばヨコエビだと、生存率がcontrolの40%以下だったのは全25地点中わずか1点のみ。A. abditaE. estuariusなど他のヨコエビを用いた急性毒性試験でも同様にほぼ毒性が見られなかったと考察に書いているので、このヨコエビ試験の感受性が低いということでもなさそう。DDT濃度が高くERMを超えている地点でも、全く生存率に影響していない。Swartzら(1994)と共通している結果。