備忘録 a record of inner life

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論文のメモ: 化学物質の毒性作用機序(MoA)の分類と生態リスク評価

化学物質の作用機序(mode of action; MoA) 。

あるMoAは特定の生物分類群に強い毒性を示すが、別の分類群には効きにくい。一方生態系の保護は、特定の分類群だけでなく、全ての分類群をなるべく対象にしたい。MoAの情報をどのように生態リスク評価・管理に役立てるべきか。メモ。

 

 

Kienzler A et al., 2019, Mode of action classifications in the EnviroTox Database: Development and implementation of a consensus MOA classification, Environ Toxicol Chem 38(10): 2294-2304.

色んな生態毒性データベースの情報をまとめて作られたEnviroTox Databaseには、各物質のMoA情報も記載されています。

EnviroToxのMoAは、既存のMoA分類をまとめて、Specific、Narcotic、Unclassifiedの3つに再分類したものです。

既存の分類とは、Verhaar (1992, Chemosphere)、USEPA Assessment Tool for Evaluating Risk (ASTER)、OASIS、USEPAのMoAToxの4つ。VerhaarとOASISのMoAはOECD QSAR Tool Boxから取得。MoAToxの分類はUSEPAのToxicity Estimation Software Tool (TEST) から取得してます。ちなみにこれらの分類は、全て化学物質の構造をベースにしています。

 

各MoAの毒性値を見ると、specificが魚類と甲殻類に対する毒性が強く(特に甲殻類)、藻類にはあまり効かない傾向にあります。これは、MoAの分類が基本魚類のデータに基づいていることに起因するようです。

また、MoAの分類は基本急性毒性に基づいているが、"indication of a specifically acting MOA may be used as a flag for potential chronic sublethal activity"とも述べられてます。

 

 

Verhaar HJ, Van Leeuwen CJ, Hermens JL, 1992, Classifying environmental pollutants, Chemosphere 25(4): 471-491.

オランダのユトレヒト大学のVerhaar氏らによる4分類。inert・less inert・reactive・specifically actingの4つ。Inertはnonplora narcopsis、less inertはpolar narcosisのことです。化学物質の構造で分類し(ただしspecificだけは知識でカテゴライズ)、各分類の物質の毒性レベルがlog Kowで予測されるレベルからどれだけ乖離しているか(Toxic Ratio)を、グッピーPoecilia reticulata)の急性LC50値で評価しています。

Toxic Ratioは reactive > specifically acting > less inert > inert。reactiveとspecifically actingのTRは裾が広い。

 

 

Hendriks AJ, Awkerman JA, de Zwart D, Huijbregts MA, 2013, Sensitivity of species to chemicals: Dose–response characteristics for various test types (LC50, LR50 and LD50) and modes of action, Ecotoxicol Environ Safety 97: 10-16.

急性LC50、LR50、LD50で種感受性分布(SSD)を描き、その平均値と標準偏差をMoAごとに比較した論文。

SSDの試験種数が増えると平均と標準偏差のばらつきは共に減少していき、specific/reactiveなMoAほど平均は小さく、標準偏差は大きくなります。Specificなものはある分類群には効くが、別の分類群には効かないため偏差が大きくなるわけですね。

Suggestionは、試験生物種が少ない時SSDを描いてもその値の信頼性は低いため、MoAの同じ物質と比較したら良いんじゃないかというもの。

 

 

Awkerman JA, Raimondo S, Jackson CR, Barron MG, 2014, Augmenting aquatic species sensitivity distributions with interspecies toxicity estimation models, Environ Toxicol Chem 33(3): 688-695.

この文脈では少し毛色が違うかも。

化学物質に対する感受性の種間外挿を行うツールICE (Interspecies Correlation Estimation) を使って推定した毒性値をSSDに入れたらどうなるか、という論文。入手可能な生物種のデータを全て入れて推定したHC5(5% Hazard concentration; 5%の種が影響を受ける濃度)をreference HC5とすると、ICEによる推定値を含んだSSDのHC5とreference HC5との差はほぼ10倍以内に収まったとのこと。

MoAごとの違いを見ると、refererence HC5とICEによる推定を含んだHC5との差のばらつきは、なぜか有機リンで一番大きい。