備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 生物種によって感受性が異なるのはなぜか?

Narcoticな毒性(あるいはbaseline toxicity)は、物質が生物膜に移行して、膜の完全性(integrity)を破壊するために生じると言われています。

そして毒性の大きさは、一般に生物種を問わず、脂質中の物質濃度で決まるとされています。

 

一方、生物体内の受容体と結合するなど、生物から何らかの反応を受けるような物質の毒性は、一般に予測するのが難しいとされています。

生物種(または物質)によって毒性は非常にばらつきます。

これは、このような反応性の物質は、生物のADME(吸収・分布・代謝・排泄)の影響を受けたり、作用機序(MoA; mode of action)が生物によって異なるためだと言われています。

 

このあたりの話について、以下、古めの論文を含むまとめ。

 

  

Vaal M, van der Wal JT, Hoekstra J, Hermens J, 1997, Variation in the sensitivity of aquatic species in relation to the classification of environmental pollutants, Chemosphere 35(6): 1311-1327.

35物質、237生物種の毒性試験データを解析したSSD論文。データ選択の基準として、"at least ten species belonging to at least four taxonomic groups (Classes), including one fish species, one Daphnid and one insect. Toxicity"とある。藻類や植物のデータがあるのかどうかは不明。言及がないので含まれてない?

Verharrの4分類(inert =narcosis, less inert = polar narcosis, reactive, specifically acting)に従って35物質を分類して、specifically actingについてはさらにカーバメート、有機リン、塩素系殺虫剤に分類。
主要な結論は、Class1や2の物質、つまりnarcoticな毒性は生物種による感受性(Toxic Ratio = 実測値とKowによる予測値との差分)のばらつきが小さいけれど、Class 3や4、すなわちreactiveやspeciically actingな物質は感受性のばらつきが大きいよ、というもの。

また、ばらつきの大きいものほど分布が対称ではなく偏っていた。例えば有機リン系殺虫剤に対して甲殻類の感受性が極めて高いために対称ではなくなったそうです。こう書いてしまうとすごい当たりまえですが。。

ちなみに同じ年に同じグループから似たような論文が出てます。

 

Escher BI, Hermens JL, 2002, Modes of action in ecotoxicology: their role in body burdens, species sensitivity, QSARs, and mixture effects, Environ Sci Technol, 36(20): 4201-4217.

Escherさんの盛りだくさんな総説。D論の一部っぽい。上のVaal et al. 2002も図付きで引用されてます。

Baseline toxicityとそれ以外でMoAを分けて、メカニズムや毒性の時間経過などの違いをまとめています。

 

 

 

このような、生物種によるspecifically actingやreactiveな物質に対する感受性の差を、定量的に議論した例が以下。QSARは物質による差がメインだと思うので、ここでは考えませんでした。

生物の何が差を生み出しているのか。

TK-TD(toxicokinetics-toxicodynamics)的な観点から整理してみて、TKに重きを置いているのがVanden Brinkらによるbiological trait(生物学的形質?)なアプローチで、TD(≒MoA?)に重きを置いているのがUSEPAのLaLoneらによるSeqapassでしょうか。ただ眺めていると、TraitはTDも含んでいる場合もあるようす。まだまだよく分かりません。

  

LaLone CA, Villeneuve DL, Burgoon LD, Russom CL, Helgen HW, Berninger JP, ... & Ankley GT, 2013, Molecular target sequence similarity as a basis for species extrapolation to assess the ecological risk of chemicals with known modes of action, Aquatic Toxicol 144: 141-154.

USEPAのSeqapass。毒性のターゲット部位(受容体とか)における構造の違いが、種間の感受性差を生み出しているという考え。AOPにおけるMIE部分。よく例として出てくるのがアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤による毒性とAChEのアミノ酸配列との相関関係。

前々から気にはしているけど、詳しくはまだあまり追えていません。

 

Van den Berg SJ, Baveco H, Butler E, De Laender F, Focks A, Franco A, ... & Van den Brink PJ, 2019, Modeling the sensitivity of aquatic macroinvertebrates to chemicals using traits, Environ Sci Technol 53(10): 6025-6034.

こちらはBiological trait(生物学的形質)によって感受性を予測・説明できる、という考え。traitって何、という感じですが、この論文では寿命、サイズ、摂餌形態、至適温度、至適pHなどに着目しています。このグループの初期の関連研究はたぶんBaird & Van den Brink (2007)

系統関係(遺伝的距離とか)と感受性の関係に着目するのに近いですが、それよりももっと直接的なアプローチなのかも。 この論文に関しては、読み込んでませんが、何となく分かったような分からんような…。

 

Buchwalter DB, Cain DJ, Martin CA, Xie L, Luoma SN, Garland T, 2008, Aquatic insect ecophysiological traits reveal phylogenetically based differences in dissolved cadmium susceptibility, Proc Nat Acad Sci 105 (24): 8321-8326.

この論文は上記2つの中間的なアプローチ? traitと系統関係に着目して、水生昆虫のCdに対する感受性を説明しようとした論文です。扱っているtraitは、金属の取り込み速度、排泄速度、解毒キャパシティなど。

詳しくはまだ読めてないので、後で読む。

金属の細胞内分画を扱っていて、USGSのSamuel Luomaも共著の一人。

 

Baas J, Kooijman SA, 2015, Sensitivity of animals to chemical compounds links to metabolic rate, Ecotoxicol 24(3): 657-663. 

Kooijman先生らの論文。生物の代謝(specific somatic maintenance)で感受性の違いを説明できるとするアプローチ。有機リン系殺虫剤とカーバメート系殺虫剤について、基礎代謝率(と呼んで良い?)が高いほど感受性が高いという相関を議論しています。なお基礎代謝率は成長と繁殖などのデータから推定されたもので、感受性は時間∞のEC0であるNEC(No effect concentrations)を指標として使用。

代謝とサイズの関係についての議論などほぼ理解できず、全体的に分かってない気がしますが、この論文はTK-TDのうちTKにフォーカスしてるということ? 上のLaloneら (2013) の感触とは大分異なるように思えますが。うーむ。