環境中にある有害物質が1つの物質単独で存在することは非常にレアなケースです。多くは、複数の有害物質が同時に存在しています。
そのように複数の有害物質が混在する際の毒性影響は、物質が単一で存在する場合の毒性影響と異なるのでしょうか。例えば単一の曝露では影響がない物質/濃度でも、他の有害物質が共存した時に初めて毒性を引き起こすことはないのでしょうか(相乗効果)。またその逆で、他の有害物質によって毒性が減少することは(拮抗)?
この問題は複合影響 (Mixture effect) や累積リスク評価 (cumulative risk assessment) などと呼ばれ、実務面でも研究面でもまだまだ未解決部分がたくさんあります。例えば、環境基準は単一の物質についておこなわれる場合がほとんどです。このブログでも複合影響の話は過去に取り上げました(→こちら)。(参考:平成24年度化学物質複合影響評価手法検討調査業務 報告書)
下の論文は、複数の物質曝露がある時に遺伝子レベルではどのようなことが起きているのか、オオミジンコDaphnia magna を用いて調べた研究です。ちなみに複合影響と遺伝子発現の関係については、本ブログでもこの記事とこの記事の中で触れています。
Garcia-Reyero N., Escalon B.L., Loh P.R., Laird J.G., Kennedy A.J., Berger B. and Perkins E.J., 2012, Assessment of chemical mixtures and groundwater effects on Daphnia magna transcriptomics, Environ. Sci. Technol., 46, 42-50.
単一曝露とMixture曝露における15のマーカーの発現変動を、qPCRで比較している論文です。ちなみに15のマーカー遺伝子の選択は、マイクロアレイを使った2009年の論文の中でおこなわれてます。面白いのは、Mixtureにおける発現変動を単一曝露時の発現変動から定量的に予測できるか検討している点です。致死応答などで用いられているCAモデルのような加算的なモデルを遺伝子発現変動にあてはめてます。
結果は、何とも言えない感じですが、マーカーと加算モデルの選択、遺伝子発現のdose-responseモデルの選択は改善の余地がありそうです。そこを改善すれば、単一曝露の応答からMixtureの応答を予測することもできるかも。
中々面白かったです。