世の中、ほんと色んな研究がされているなと思いました。
疎水性物質の毒性試験をおこなう時、添加したはずの物質が消え失せていることがあります(参考:こちらの論文)。その消失の原因の一つに「対象物質が試験容器の壁面に吸着してしまっている」ことがあります。
下の論文は、「ではガラス容器の壁にPAHsはどれくらい吸着するのか?」を調べたものです。PAHsは多環芳香族炭化水素の略で、複数の芳香環を持つ疎水的な物質群の総称です。
Qian Y., Posch T. and Schmidt T.C., 2011, Sorption of polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs) on glass surfaces, Chemosphere, 82, 859-865.
- キャリアー溶媒としてのメタノール量を増加させると、ガラス表面への吸着は減少したらしいです。共溶媒効果cosolvent effect.。
- CaCl2濃度を増加させると、PAHsのガラス表面への吸着も増加したそうです。塩析効果(salting-out effect)により、溶液中のPAHs活性が増加したためですね。
上記二つの結果はどちらも、「なぜ汽水域で汚染がトラップされるのか?」で書いたことに関係してます。
(以下、この論文の結果ではないけど、少し調べたのでメモとして。間違ってるところあるかも。)通常のガラスは、シラノール基(-Si-OH)を表面に持つので、親水性です。だから、新品のきれいなガラスにはよく水がなじむはずです。撥水加工をしていないガラスが水をはじく時は、ガラス表面が汚れているかもしれません。汚れが疎水的で、水をはじいているのです。
シラノール(Wikipediaより)
しかし、よく洗ったきれいなガラス表面は親水性のはずなのに、それでもこの論文のように疎水性物質が表面にくっついてしまうのです。そんな時はシラン処理(silanization)をします。シラン処理は、シラノール-Si-OHをシロキサン結合-Si-O-Si-に変化させ、適当な置換基をくっつける処理です、たぶん。置換基として、シラノールより親水性の強いものを持って来れば、疎水性物質の吸着を防げるのでしょう、たぶん。
シロキサン結合(Wikipediaより)