ひきつづき自宅就業中。
Nowell LH, Norman JE, Ingersoll CG, Moran PW, 2016, Development and application of freshwater sediment-toxicity benchmarks for currently used pesticides, Sci Total Environ 550: 835-850.
ちら見して放っていた論文。底質基準の考え方と歴史がBackgroundにまとまっていて良いです。
底質基準の決め方、主な3つ。
1) 経験的な方法。ERM(Effect Range Median)、ERL(Effect Range Low)の類。野外の汚染底質のデータを用いる疫学的な手法。野外の底質は、当然多様な物質によって汚染されてるので、注目している物質の影響のみを取り出すのは難しい。
2) 平衡分配法EqP。Di Toro 1991に詳しい。水の濃度と分配係数が分かれば、平衡状態の底質濃度も分かる。課題は、分配係数Kocの推定に不確実性があり、底質の種類ごとに異なってしまうことと、対象が非イオン性有機物に限定されること。
EqPを底質基準の設定に用いる上で満たされているべき仮定は、①水生生物と底生生物の感受性が等しい、②系が平衡状態にある、③底質の有機物濃度でnormalize可能あたり。
3)"Spiked Sediment Bioassay (SSB)"。底質に試験物質を添加して毒性試験をおこなう。課題は、試験できる生物種が限られていること。
この論文では、できれば 3)SSB の方法で、ただしスパイク試験のデータがなければ 2)EqP の方法で農薬の底質benchmarkを提案してます。導出されたbenchmarkの数は、2)EqP で81物質、3) SSB で48物質。なお対象としている生物群は無脊椎のみ。これはスパイク試験が無脊椎くらいでしかやられてないから。
SSBとEqPのbenchmark値の比較もしてます。どちらが高い、低い、という訳ではないけど、おおよそ100倍の差におさまってます。SSBの生物種はユスリカとヨコエビ(H. azteca)ですが、EqPの生物種は底生生物ではなく水中にいる生き物(水質基準の元になったデータ)という非対称性はあるようです。ちなみに平衡分配法で使用するKocの値は、PPDB Database、USEPAのEPI Suiteや個別の文献から取得したとのこと。
この比較をもう少し深く見てみたい(EqPによる基準導出の仮定を疑うような視点で)けど、中々面白かったです。
(追記 2020.09.15)
Kocの値の選択について別の記事に書きました。