備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 魚類(胚)を用いた底質毒性試験

魚類を用いた底質の毒性試験。

魚は水中(水柱)にいるのに底質の汚染評価に使えるのかとか、bioavailabilityの問題がどう解釈されているのか知りたくてざっと読んでみました。

 

Saiki P., Mello-Andrade F, Gomes T, Rocha TL, 2021, Sediment toxicity assessment using zebrafish (Danio rerio) as a model system: Historical review, research gaps and trends, Science of The Total Environment: 148633.

ゼブラフィッシュを用いた底質毒性試験のレビュー。こういう論文があるよ、という話がメインでクリティカルな内容はあまり書かれてません。

魚類胚試験(いわゆるFET)を定めたOECDのテストガイドライン(TG)236が2013年に出て、その影響か、2014年と2015年にゼブラを用いた底質試験の論文数が増えてます。その後また落ち着いてますが。。

いろんな生活段階が使用される中、やはり胚-仔魚期が最も多いようす。そして4割強がWhole-sedimentを使用していて、3割ほどが有機溶媒による抽出物を試験対象としています。

 

Hollert H, Keiter S, König N, Rudolf M, Ulrich M, Braunbeck T, 2003, A new sediment contact assay to assess particle-bound pollutants using zebrafish (Danio rerio) embryos, J Soils Sediments 3(3): 197-207.

ゼブラフィッシュの胚試験を、有機溶媒による抽出物や間隙水ではなく、底質そのものに適用したたぶん最初の論文。でも底質は湿底質ではなくて、凍結乾燥させてから使用しています。間隙水より底質そのものを使った方が毒性が高い、というのは面白い結果です。

しかしこの原因が「胚はparticle-boundなfractionの影響を受けるから」と解釈できるように書かれているのは違う気がする。どうも検証されていないっぽいですが、曝露形態の違い(水or 粒子)というより、これは曝露系が非平衡状態にあることの副作用(→Fischer model案件)では?。底質があるとpassive dosingで濃度が比較的一定に保たれますが、底質がないと濃度は減衰してしまいます。

 

Hallare AV, Seiler TB, Hollert H, 2011, The versatile, changing, and advancing roles of fish in sediment toxicity assessment—a review, J Soils and Sediments 11(1): 141-173.

上のHollertら(2003)のグループからの総説。この記事の冒頭の総説より突っ込んでいます。水中に棲む魚を底質評価に用いるのは妥当なのか、という問いにも応えていて、カレイなどの底生魚を用いた試験が多いことや、水中に棲む魚でも底質をbreeding substrateとして利用している(ため生態的な意義を考慮するとは繁殖を影響とすべき)ことなどが議論されています。

なおゼブラフィッシュに関しては"Upon spawning, the zebrafish eggs sink straight to the bottom of the water column and come into direct contact with the sediments and possible contaminants. That is why this method was believed to offer the most realistic scenario concerning bioavailability of chemicals in field situations (Küster and Altenburger 2008)."と書いてます。ゼブラを底質試験に使う正当化は割とされているかも。

またこの総説の時点では凍結乾燥させた底質を使用してますが、後のFeilerら(2013, ET&C)などはそのままの底質を用いているもよう。