備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 洪水による底質中汚染物質の移動と生態影響

日本でもスコールみたいな雨が頻発するようになって久しいですが、増水や洪水による(化学物質の移動を介した)生態影響の話。

 

Crawford SE, Brinkmann M, Ouellet JD, Lehmkuhl F, Reicherter K, Schwarzbauer J, ... Hollert H, 2021, Remobilization of pollutants during extreme flood events poses severe risks to human and environmental health, J Hazard Mater 126691.

洪水による生態影響と言うと、生物が流されるとか生息場所が壊されるなどの物理的な影響をまずは思いつきがちですが、泥に蓄積した有害物質が水中に再び巻き上がって移動する事によるecotoxな影響もありえます。その影響をどういう試験で調査するかの方法論などを中心にした総説。魚類を用いた底質試験を開発したHollertさんらのグループから。

 

Müller AK, Leser K, Kämpfer D, Riegraf C, Crawford SE, Smith K, ... Hollert H, 2019, Bioavailability of estrogenic compounds from sediment in the context of flood events evaluated by passive sampling, Water Res 161: 540-548.

これも同じグループの論文。底質を採取して、エストロゲン活性を調べるYES assayの変法とノニルフェノール・E1・E2・EE2を測定したという割とシンプルな研究ですが、"flood events"という文脈に位置付けられているのは、採取した底質を実験室で再懸濁させ、その懸濁液中ののニルフェノールなどの濃度をパッシブサンプラーで測定しているためです。この戦略、面白いですね。

 

Niu L, Ahlheim J, Glaser C, Gunold R, Henneberger L, König M, ... Escher BI, 2021, Suspended particulate Matter—A source or sink for chemical mixtures of organic micropollutants in a small river under baseflow conditions?, Environ Sci Technol 55(8): 5106-5116.

これは面白い!洪水とは関係ありませんが、底質の巻き上がりと浮遊物質の沈降に伴う有害物質の移動に関するのでここにまとめて記録。河川水と底質を2箇所から採取し、642個の有機物質について、ろ過して得た粒子状浮遊物質(suspended particulate matter; SPM)中の濃度と底質中濃度、(上層)水中濃度を測定し、上層水と間隙水についてはパッシブサンプリング(PES)でフリー溶存濃度(Cfree)を測定しています。面白いのは、上のMüllerら(2019)と同様、SPMを再懸濁させてそこでのフリー溶存濃度(Cfree,SPM)を測定して、通常のCfreeと比較している点。72%の物質では、Cfree,SPMの方が通常のCfreeより大きく、これらの物質は河川で、粒子状浮遊物質SPMから水に溶け出すフラックスのある状態(つまり非平衡状態)だったと解釈できます。そしてCfree/Cfree,SPM比は物質のlog KOWと正の相関にありました(log KOW 4~6あたりで1:1)。他にも642物質をneutralとcharged chemicalsに分けて議論していたり、AhR活性やPPAR結合をin vitroバイオアッセイで調べたりして盛りだくさんです。

どうでも良いけど、SPMとかSPE、PESとかの似たような略語が出過ぎで読み始めは頭に入ってこなかったです。SPMはSPMEと空目して、PES(=Passive Equilibrium Sampling)のことかと思ってしまうし。

 

 

 

これまで環境水のサンプリングは、晴天時にしかやったことありませんでしたが、雨天時にもやってみたくなりました。