備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: PPCPs汚染の世界規模でのモニタリング

Wilkinson JL, Boxall AB, Kolpin DW, Leung KM, Lai RW, Galbán-Malagón C, ... Teta C, 2022, Pharmaceutical pollution of the world’s rivers, Proc National Acad Sci 119(8).

PNAS。世界規模で医薬品・生活関連物質(PPCPs)の測定を行った論文。読みやすいです。自分の知っている研究者ではYork大のAlistair Boxallや韓国のKenneth Leungなどが著者に入っています。

やっていることはシンプルで、これまでモニタリング情報がなかった地域で環境水中のPPCPs濃度を測定し、生態系へのリスクを推定したり、PPCP濃度と社会経済的な指標との関連を議論したりしています。日本を含む104か国、1052地点からサンプリングし、61物質の分析を実施。砂漠や高地、バグダッド、南極からもサンプリングしています。

印象的なのは、低所得国よりも低中所得国(countries of lower-middle income)の方が高濃度汚染が見られたという結果。低所得国はそもそも医薬品が十分にないので汚染がそこまで進んでいないが、低中所得国だと医薬品はあるが水処理施設がないためにそのような結果になると考察されてます。

各物質単独の生態リスクを見た場合、あまり高くなく、一部の物質(特にpropranolol、sulfamethoxazole)でしか予測無影響濃度(PNEC)を超えてなかったようです。もっとも複数の物質による複合的な影響は、そこまで踏み込んで議論されていません。

わずか61個(いやもちろん1つの研究で実施するには十分多いのですが)のPPCPsの濃度が生態リスクをどこまで代表しているかは分からないので、こういう研究をバイオアッセイでやってみたら面白そう。水サンプルを凍結して送ってもらって、一か所でバイオアッセイ。ついでにTIE&EDAなこともやって何が主要なストレス要因物質か同定したら、めちゃ面白そう。

 

Gunnarsson L, Snape JR, Verbruggen B, Owen SF, Kristiansson E, Margiotta-Casaluci L, ... & Tyler CR, 2019, Pharmacology beyond the patient–The environmental risks of human drugs, Environ International 129: 320-332.

上のWilkinsonでのPNECソースに使われている論文。ちゃんと読んでません。どうやらこの論文もPPCPsの慢性試験データを集めてきて、解析している論文のようです。PPCPsのターゲット部位の相同遺伝子が対象生物(魚、ミジンコ、藻類)にあると毒性値が下がる傾向にあるのは、当たり前かもしれませんが面白い。生態毒性的にはSeqapassなどと似ているアプローチですね。

魚の血漿中濃度から毒性を予測しようとするアプローチで、抗がん剤の毒性を過小評価してしまうなどの話もあります。

 

 

 

Maack G, Williams M, Backhaus T, Carter L, Kullik S, Leverett D, ... Van den Eede C, 2021, Pharmaceuticals in the Environment: Just One Stressor Among Others or Indicators for the Global Human Influence on Ecosystems?. Environ Toxicol Chem, in press. 

ついでに。

ET&CにPPCPsの特集号が組まれていて、このMaack et al.(2021)はそのイントロ。「2016年にもPPCPsの特集号が組まれたけど、まだよく分からないこと多いよー」的な話。上のWilkinson et al.(2021)にもつながる、モニタリング地域の偏りも少し触れられています。