備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

「破壊する創造者」感想

生物ってなんでもありだな、というのが一番の感想。

進化は突然変異と自然選択だけではなく、共生発生や異種交配、エピジェネティクスによっても生じる。そしてウイルスは共生発生による進化の大きな推進力になっている。端折りまくった本書の概要は、おおよそこんな感じです。著者は医師ということで、医学への応用についても詳しく書かれています。

 

ヒトゲノムの中にウイルスに由来する配列があるということぐらいはなんとなく知ってましたが、それは真核細胞とシアノバクテリアの共生によってミトコンドリアが誕生したのと同様の共生の結果であり、これまでに幾度となく繰り返し生じているとは全然知りませんでした。しかも、内在化した(ゲノムに入り込んだ)ウイルスの中にはタンパク質を合成しているものや疾患・免疫に関与しているものもあるとか。もう訳分かりませんね。

 

かなり読み応えがありました。大げさですが、生物観を揺さぶられるような感じ。ただ半年ほど前に大方読んで放置していたので、今は熱が逃げてしまいました…。 

破壊する創造者――ウイルスがヒトを進化させた (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 

 

論文のメモ: 外来鳥類の定着成功を決めるのは?

「成功した侵略種の生活史を解明する」

Sol D, Maspons J, Vall-Llosera M, Bartomeus I, García-Peña GE, Piñol J, Freckleton RP, 2012, Unraveling the life history of successful invaders, Science 337: 580-583.

ここ最近読んでいたinvasion successを決める因子についての面白くて読みやすい論文。環境汚染とは特に関係ありません。

鳥の侵入先での定着成功(0/1で表記)を、どのような形質が説明できるかGLMM等で調べたメタ解析論文です。全部で428種の2760導入事例について解析してます。これだけ膨大なデータがあるのが、やはり鳥とか昆虫の良いところですよね。こんなの甲殻類では絶対無理な気がします(知らんけど)。

個体群増加率がinvasion successを決定づけているかと思いきや、むしろ逆相関。個体群増加率の大きい種が定着成功しやすいしやすいのは、導入個体数が少ない(low propagule size) 時だけだったそうです。

結論としては、常にポンポン産む種よりシビアな環境では産卵を先延ばしにする種の方が一般的に定着成功しているとのことでした。

PLGS (phylogenetic generalizd least-squares) という手法があるのを知った。

論文のメモ: 外来種と化学物質汚染 その2

前回の続き。前回は、外来種の方が高い汚染耐性を持つという報告を中心に見ましたが、今回はその逆の話。

   

「在来種の二枚貝外来種より耐性が高いのか?

Faria M, López MA, Díez S, Barata C, 2010, Are native naiads more tolerant to pollution than exotic freshwater bivalve species? An hypothesis tested using physiological responses of three species transplanted to mercury contaminated sites in the Ebro River (NE, Spain), Chemosphere 81:1218-1226.

外来種であるタイワンシジミ、ゼブラマッスルと在来種のP. littoralisをin situで水銀曝露させた論文です。在来種の致死率が一番高かった。

    

「タホ湖で紫外線とフルオランテンに曝露した在来魚・外来魚の耐性の違い

Gevertz AK, Tucker AJ, Bowling AM, Williamson CE, Oris JT, 2012, Differential tolerance of native and nonnative fish exposed to ultraviolet radiation and fluoranthene in Lake Tahoe (California/Nevada), USA, Environ Toxicol Chem 31:1129-1135.

タホ湖でブルーギルとミノーを採取し、それぞれにフルオランテンへの曝露をおこなった論文。在来種であるミノーの方が耐性あり。

   

「在来・外来魚種の化学物質ストレスへの耐性:ライン川の事例

Fedorenkova A, Vonk JA, Breure AM, Hendriks AJ, Leuven RSEW, 2013, Tolerance of native and non-native fish species to chemical stress: a case study for the River Rhine, Aquatic Invasions 8:231-241.

ライン川の在来魚36種と外来魚24種の毒性試験データを用いて全21物質のSSD (Species Sensitivity Distribution) を作成した論文。わずか数種の感受性だけを比較して結論を出す論文が多い中、良い方向性。傾向としては外来種の方がHC50が大きいけれど、どの物質でも統計的な有意差はなかったとのことです。

 

 

「侵入種のリスク管理:機能形質は侵入の戦略と成功にどれほど関与するのか?

Weir SM, Salice CJ, 2011, Managing the risk of invasive species: How well do functional traits determine invasion strategy and success?, Integ Environ Assess Manag 7:299-300.

Learned Discourses。耐性だけじゃなくて、増殖速度も一緒に考えようという話。

 

論文のメモ: 外来種と化学物質汚染

外来種って応用的な問題であって、純粋科学の扱うトピックではないと勝手に思ってましたが、そんなことないかも。壮大な野外実験だと思えば、結構面白い。

 

 

「侵略種はランダムに選ばれているわけではない

Karatayev AY, Burlakova LE, Padilla DK, Mastitsky SE, Olenin S, 2009, Invaders are not a random selection of species, Biol Invasions 11:2009-2019.

北米とヨーロッパにおける淡水無脊椎動物について、在来種と外来種との特徴を比較した論文。外来種は軟体動物や甲殻類の割合が高いとか、懸濁物食者suspension-feederが多いとか。また、外来種は有機汚染に耐性のある種が多いという結果です。

では、汚染耐性はどうやって評価してるのでしょうか。Mandaville (2002) のAppendixによる分類を基にしているようです。Mandaville (2002) の分類は、さらにBarbour et al. (1999, EPA) やBode et al. (1996, NYS Department of Environ Conservation) などを元ネタにしています。しんどいので元ネタの詳細は未確認。どうも野外調査をして、生息状況と生息地点の汚染状況から判断しているっぽいですが…。

 

水質汚染外来種の侵略を増加させる

Crooks JA, Chang AL, Ruiz GM, 2011, Aquatic pollution increases the relative success of invasive species, Biol Invasions 13:165-176.

サンフランシスコ湾で付着生物の銅曝露実験をおこなった論文。護岸沿いにポリ塩化ビニルのプレートを沈めて、4~6週ごとに回収し、複数濃度の硫酸銅に72時間曝露させて海に戻す。その作業を計24週繰り返すという実験です。結果、外来種の方が銅による影響を受けにくく、高濃度でも種数・個体数の変化が生じにくかったらしいです。

考察では、バラストタンクでの輸送など外来種が移動する際にtolerantなものが選ばれた( = "weeding out" procces) のではないか、と述べられてます。自分が気になったのも、これに似ていますが、ここで調べられている外来種集団は既にある程度汚染されたサンフランシスコ湾に定着しているので、(清浄な地点にいた?)元の集団とは異なる形質・汚染耐性を獲得してるんじゃないか、ということ。

上のCrooks et al. (2011) でも気になる点は同じ。汚染耐性は定着後の集団を基にした評価です。

 

「汽水域の状況と侵略種の地理的分布との関係

Dafforn KA, Glasby TM, Johnston EL, 2009, Links between estuarine condition and spatial distributions of marine invaders, Diversity Distributions 15:807-821.

あとで読む。

 

 

野外から採ってきた在来種と外来種とのストレス耐性を調べたという論文はいっぱいあります。流し読みしただけですが、例えば以下。

 

バルト海における在来ヨコエビと非在来ヨコエビにおけるストレス耐性と腹仔数の違い

Sareyka J, Kraufvelin P, Lenz M, Lindström M, Tollrian R, Wahl M, 2011, Differences in stress tolerance and brood size between a non-indigenous and an indigenous gammarid in the northern Baltic Sea, Marine Biol, 158:2001-2008.

生息環境や食性、生活史が似ている在来種G. zaddachi外来種G. tigrinusの熱・貧酸素への耐性を比較した論文。両種は同一地点から採取してます。外来種の方が耐性があるという結果。

 

 「淡水巻貝の非生物ストレスへの高い耐性と侵入成功

Weir SM, Salice CJ, 2012, High tolerance to abiotic stressors and invasion success of the slow growing freshwater snail, Melanoides tuberculatus, Biol Invasions 14:385-394.

繁殖能では在来種B. glabrataに劣るM. tuberculatusの温度、化学物質(Cd・マラチオン)、乾燥に対する耐性を調べた論文。外来種は野外採取、在来種は研究所で継代飼育されているもの。外来種の方が耐性があるという結果。侵入成功している外来種の多くは、繁殖能が高いのでレアな例ではないかとのこと。

 

 「在来種・侵入種・寄生されたヨコエビへのアンモニア毒性

Prenter J, MacNeil C, Dick JT, Riddell GE, Dunn AM, 2004, Lethal and sublethal toxicity of ammonia to native, invasive, and parasitised freshwater amphipods, Water Res 38:2847-2850.

アイルランドでの在来1種と外来2種のアンモニア耐性比較論文。

 

 

外来種の遺伝的な解析については、これから勉強していきたい。

論文のメモ:ヨコエビ飼育のための人工海水の素

「汽水産端脚類を用いた慢性非致死底質バイオアッセイ

Emery VL, Moore DW, Gray BR, Duke BM, Gibson, AB, Wright RB, Farrar JD, 1997, Development of a chronic sublethal sediment bioassay using the estuarine amphipod Leptocheirus plumulosus (Shoemaker), Environ Toxicol Chem 16(9):1912-1920.

忘れそうなのでメモ。汽水産・海産ヨコエビの繁殖に適切な人工海水の素を調べてます。Instant Ocean(Aquarium Systems)やEPAでお薦めしているGP2培地より、Forty Fathoms (Marine Enterprise)が良いとのこと。Forty FathomsでググったらCrystal Sea® Marinemixというのが出てきたけど、同一商品かな?

 

 

(追記 2017.11.25)

EPAプロトコルにあるGP2培地は、オリジナルのGP2培地 (Spotte et al., 1984) を簡略化したものだったのか。オリジナルを見ると、ビオチンやビタミンB12も加えています。

 

(追記 2020.08.04)

日本での研究用途なら、Marine Art SF-1が良いかも。組成が公開されているので。

論文のメモ: メタゲノム情報の保存庫としての貝殻

気晴らしで読んだ論文。

 

「メタゲノムアーカイブとしての貝殻

Coutellec MA. 2017. Mollusc shells as metagenomic archives: The true treasure is the chest itself. Mol Ecol Resources 17(5): 854-857.

Der Sarkissianら (2017) の解説記事。貝殻のDNAを抽出して、その貝のDNAだけでなく、関連する細菌叢などのメタゲノムを分析できたという研究。病原性微生物の存在など、7000年前の情報まで辿れたという話です。貝殻がどうやって作られてるのかは全然知りませんが、藻類のDNAも検出されてるみたいで面白いです。食物などで取り込まれたDNAは案外体内に遍在してるんですね。最近「破壊する創造者」を読んでて、このへんの話に興味あり。

貝殻の微生物メタゲノムは、海水の細菌叢より土壌細菌叢の方に近かったそうです。その原因はデータベースの情報不足かもしれないと考察されていてます。こういう系の論文には常について回る課題ですね。

 

 

「ポリスチレンがゴカイの細菌群集に影響する

Kesy K, Oberbeckmann S, Müller F,  Labrenz M. 2016. Polystyrene influences bacterial assemblages in Arenicola marina-populated aquatic environments in vitro. Environ Pollut 219:219-227.

マイクロプラスチックによる生物への影響には、プラスチック自身の物理的な影響とプラスチックに吸着している有害物質による影響があるようです。マイクロプラスチックの影響はそれだけじゃなくて、(糞や周囲の底質中の)細菌群集への影響もあるのではないか、という疑問を調べた論文です。面白そうかなと思ったけど、あんまりパッとしなかった。ゴカイ自身への影響や腸内細菌は調べていない。

 

 

TSAに登録する際のmultifastaファイルの編集

NGSで読んだcDNAをデータベースに登録するとき、生配列はSRA(Sequence Read Archive)だけど、アセンブリ配列はTSA(Transcriptome Shutgun Assembly)という区分だそうな。

提出するfastaファイルは以下の形式に則っていないとダメだそうです。

 
>CLN01  <-- 1件目のエントリ名
ggacaggctgccgcaggagccaggccgggagcaggaagaggcttcgggggagccggagaa
ctgggccagatgcgcttcgtgggcgaagcctgaggaaaaagagagtgaggcaggagaatc
gcttgaaccccggaggcggaaccgcactccagcctgggcgacagagtgagactta
//      <-- 配列情報終了フラグ
>CLN02  <-- 2件目のエントリ名
ctcacacagatgcgcgcacaccagtggttgtaacagaagcctgaggtgcgctcgtggtca
gaagagggcatgcgcttcagtcgtgggcgaagcctgaggaaaaaatagtcattcatataa
atttgaacacacctgctgtggctgtaactctgagatgtgctaaataaaccctctt
//      <-- 配列情報終了フラグ

perlってなにそれ状態で、大量の配列を含むfastaファイルの一括編集に手こずったので、メモ。

自分がやらないといけない作業は、スラッシュ//を追加することと、エントリ名を変更すること。次の2つのサイトを参考にコピペして、若干の変更を加えれば出来ました。なお、MacBook Proテキストエディタにmi使用。

マルチファスタの改行をとる(perl、awk) - script of bioinformatics

bioperl - Replace Fasta header files using Perl - Stack Overflow

 

使用したコードの一部は以下のもの。コピぺしたものをそのまま使っているので、コードの意味はイマイチわかってません。

#!/usr/bin/perl#!/usr/bin/perl

# マルチファスタファイル

open (IN, "<multi.fasta");

# 出力ファイル

open (OUT, ">output2.fasta");

 

@IN = <IN>;

$a = 1;

for ($i=0;$i<@IN;$i++) { 

  if(@IN[$i] =~ />/){

       if(@IN[$i] =~ /DN([0-9]*)/) {   #各配列のヘッダが"DNXXX"になっている

             $b = sprintf("%06d",$a); #ヘッダの番号を6桁で表示"000001"のように

     my $f = " / /\n\>\ABC$b\n"; #">ABC000001"という表記

             print OUT $f;

             $a =$a +1 ;   #番号を1ずつ足していく

       }else{

       print OUT @IN[$i];

       }

  }else{

print OUT @IN[$i];

}

}

close(IN);

close(OUT);

 

 

論文のメモ: 遺伝子ネットワーク推定とAOP

マイクロアレイやRNA-seqのデータから遺伝子間の関係(ネットワーク)を推定し、有害物質によって引き起こされる悪影響adverse outcomesのメカニズムを明らかにしようという研究について。

 

「システム生物学アプローチによってNarcosisのCa依存メカニズムを解明する

Antczak P, White TA, Giri A, Michelangeli F, Viant MR, Cronin MT, Vulpe C, Falciani F, 2015, Systems biology approach reveals a calcium-dependent mechanism for basal toxicity in Daphnia magna, Environ Sci Technol, 49(18), 11132-11140.

昔2回ほど簡単に読んだけど、頭に残ってなかったので精読し直しました。

Narcosis(Basal toxicity)のメカニズムをシステム生物学的なアプローチで明らかにしたよ、という論文。疎水性の物質ほど毒性が大きい、それは疎水性物質ほど細胞膜のintegrityを阻害しやすいから、ということまで既存研究で分かっていたけれど、より詳細なメカニズムまでは明らかになっていなかったそうです。この論文は、2013年ESTのDaphnia magnaトランスクリプトーム解析論文のマイクロアレイデータ(26種の有機物質に24h曝露)用いて、曝露物質のlogKowと遺伝子発現、曝露物質の物性との関係を調べることによって、その詳細なメカニズム理解に迫ったものです。細胞膜でのCa輸送阻害がnarcosisのMolecular Initiating Event(MIE)ではないか、というのが結論。

Ca関係のpathwayが怪しいと見做すきっかけになった結果は、logKowと発現データの相関(Significance Analysis for Microarrays; SAM, Table S6)?色々やっているけど、肝心の結果の記述はあっさりしてます。Ca阻害がMIEだという仮説の検証のため複数の追加実験をおこなっていて、投げっぱなしでないのは好感が持てます。

イントロ読んだ時は、全自動的なデータ解析でAOP(Adverse Outcome Pathway)を構築するのかと思ったけど、意外と泥臭いことやってました。

 

AOPリバースエンジニアリング

Perkins EJ, Chipman JK, Edwards S, Habib T, Falciani F, Taylor R, Aggelen GV, Vulpe C, Antczak P, Loguinov A. 2011. Reverse engineering adverse outcome pathways. Environ Toxicol Chem 30(1): 22-38.

上の論文は、この総説?を先に読んだ方が理解しやすいかも。Ankleyら(2009, Aquatic Toxicology)のファットヘッドミノーのマイクロアレイデータを用いて、ネットワーク解析をおこなった論文。RのminetパッケージとSoftware Environment for Biological Network Inference(SEBINI)を使って、ARACNeとCLRで解析。

上のAntczakら(2015)もそうだけど、遺伝子発現データだけでなくadverse outcome(AO)データ自身もネットワークに組み込んでいるのが面白い。この論文では、繁殖能低下の代わりにtestosteronレベルをAOとしてます。AOと関連の深いpathwayを探索するという目的に適している方法だと思います。

データ解析の結果を一人歩きさせないよう述べた次の文は大事。"these results must be evaluated by both leveraging preexisting knowledge of the biological system and targeting follow-up experiment to explicitly test the hypothesis generated."

 

 

論文のメモ: 水生生物の体内に蓄積した金属の細胞内局在と毒性影響との関係

このへんの論文と関係ある話。体内の全蓄積量よりも、解毒された量を除いた画分の量の方が、毒性影響に関係しているのではないかという話。

 

二枚貝におけるCd・Znの細胞内局在:MSFとBDMの重要性

Wallace WG, Lee BG, Luoma SN. 2003. Subcellular compartmentalization of Cd and Zn in two bivalves. I. Significance of metal-sensitive fractions (MSF) and biologically detoxified metal (BDM). Marine Ecol Prog Ser 249, 183-197. 

この分野で古典になっている論文。体内金属の分画手法が多く引用されてます。オルガネラとheat denaturable protein(下図のNon-MTLP)の合計であるMSF(metal-sensitive fraction)が、毒性を引き起こす金属画分として挙げられているけど、その画分が毒性とリンクしていることの証拠は特にこの論文にはない。もっと遡る必要あり。

f:id:Kyoshiro1225:20171007175945p:plain

 

「オオミジンコの細胞内亜鉛分布とその毒性への関連

Wang WX,  Guan R. 2010. Subcellular distribution of zinc in Daphnia magna and implication for toxicity. Environ Toxicol Chem, 29 (8), 1841-1848.

オオミジンコの亜鉛MSFを測定し、48h急性致死との関係を調べた論文。亜鉛の曝露濃度を増してもMSFはきれいに増えない。むしろcelluar debris画分(細胞膜など)が曝露濃度に対応して増える。この論文では、MSFはオオミジンコの急性毒性の指標にはならない、と結論づけてますが、cellular debrisが毒性の指標になるかも、という方向性は考えられないのかな。あと、甲殻類の場合、殻に含まれる画分はどこに分類されるんでしょう?元ネタのWallaceら(2003)は二枚貝だし…。あと急性毒性は、解毒とかほとんど関係なさそうなので細胞内局在を指標にすることの効果は薄いのかも。

この論文は4日~14日の曝露も実施していて、その時のZnの大部分はCellular debris画分ではなく、オルガネラとメタロチオネインなどのheat-stable proteins画分に移行していました。このことから、急性と慢性では毒性のメカニズムが違うのかと思ったけど、どうなんでしょ。

  

「カキC. hongkongensis亜鉛感受性の地域差

Liu F, Rainbow PS, Wang WX. 2013. Inter-site differences of zinc susceptibility of the oyster Crassostrea hongkongensis. Aquatic Toxicol, 132, 26-33.

MSFの方が全蓄積量より、致死毒性の予測に適しているという話。けどその根拠が適切なのかは良く分からないです。MSFと致死を対数線形回帰しているけど…。

 

「2種のヨコエビにおけるCdの摂取速度と細胞内局在は致死影響を説明できるが…

Jakob L, Bedulina DS, Axenov-Gribanov DV, Ginzburg M, Shatilina ZM, Lubyaga Y A, Madyarova EV, Gurkov AN, Timofeyev MA, Pörtner HO, Sartoris FJ,  Altenburger R, Luckenbach T. 2017. Uptake kinetics and subcellular compartmentalization explain lethal but not sublethal effects of cadmium in two closely related amphipod species. Environ Sci Technol, 51, 7208-7218.

あとで読む。

精読はしてません。同属だがサイズが10倍以上異なる2種のヨコエビをCdに4週曝露させて、感受性・摂取速度・MSF蓄積量などを比較した論文。体の大きいE. verrucosusの方が感受性が低く、代謝率が低いせいかな、という話。

同じ影響レベル(LC1)の曝露時は、2種のMSF濃度がほぼ同じというCampanaら(2015)と似たような結果を示してます。

 

ヨコエビの金属細胞内局在を調べる手法の比較

Geffard A, Sartelet H, Garric J, Biagianti-Risbourg S, Delahaut L, Geffard O. 2010. Subcellular compartmentalization of cadmium, nickel, and lead in Gammarus fossarum: comparison of methods. Chemosphere 78 (7), 822-829. 

体内の細胞質基質cytosolに蓄積した金属のうち、MTLP(メタロチオネイン様タンパク質; metallothionein-like protein)とnon-MTLPに分画する手法には主に、加熱時に安定している画分をとMTLPとみなす手法と、サイズ分画する手法との2つがあります。その2つの手法を比較した論文。

手法の差は大きいという結果。例えば熱処理法ではCdのMTLP画分>non-MTLPなのに、サイズ分画法では逆転している、など。考察によると、加熱処理後にheat sensitive proteins(=non-MTLP)が金属と錯体を形成してしまうためではないかとのことです。つまり熱処理法ではnon-MTLP量を過小評価しているみたいです。

 

 

論文のメモ: 侵略的外来種なヨコエビの話

「侵略的ヨコエビになる方法:生活史形質の比較

Grabowski M, Bacela K, Konopacka A. 2007. How to be an invasive gammarid (Amphipoda: Gammaroidea)–comparison of life history traits. Hydrobiologia 590(1), 75-84.

ヨーロッパにおける旧ヨコエビ亜目を在来種・外来種に分けて、その生活史形質を比較した総説的な論文。Breeding female sizeやBrood size(一回当たりの産仔数)、繁殖期の長さなど。外来種で継続的な繁殖に成功している種は、brood sizeが大きかったりや人為汚染に対する耐性が高かったりする傾向にあるとのことです。

ただ、考察に書いてあるけど、例えばこの論文で在来種扱いだったG . pulexアイルランドでは侵略種と考えられているそうで、話はそれほど単純ではなさそう。あと、捕食(or 被食)様式はこの論文で解析の対象ではないけど、やはり重要だろうとのこと。

 

 

「非在来種ニホンドロソコエビの北米太平洋個体群における地理分布と隠蔽遺伝的多様性

Pilgrim EM, Blum MJ, Reusser DA, Lee H, Darling JA. 2013. Geographic range and structure of cryptic genetic diversity among Pacific North American populations of the non-native amphipod Grandidierella japonica. Biol Invasions 15(11), 2415-2428.

日本では在来種であるニホンドロソコエビ。人間活動によって他国へ持ち込まれ、そこでは侵略的外来種として認識されてます。ミトコンドリアCOI領域607bpを読んで、個体群の遺伝的構造を調べてます。

北米太平洋側海岸で、2つの集団に分かれているとのこと。各集団内での遺伝的多様性は低いので、ニホンドロソコエビが持ち込まれたのは数回だとみなされてます。2つの集団間の差異は異種間並みに大きいそうです。ヨコエビは隠蔽種の話をよく聞く気が…。