ミトコンドリアの機能の研究方法についてお勉強。酸素消費速度(OCR)とか膜電位とか。
その中でMitochondrial swelling assayというのがあり、少しメモ。Swellingとは膨潤と訳されることが多く、例えばミトコンドリアの膜透過性遷移孔(mPTP)が開く際など、ミトコンドリアは膨潤し膜電位が低下する。最終的にネクローシスにつながるかもしれない。膨潤自体が機能障害という感じでもないようですが、540 nmの吸光度で簡単に測定できることもあってか、広く調べられています。
mitochondria swelling assayは原理が分かっていない? | 真の心は平和にあり
こういうブログ記事もあり、確かにswelling assayをしている論文をいくつか読んでも特に原理が書いていませんでしたが、下に引用する論文で言及されているのを見つけたのでメモ。
Li W, Zhang C, Sun X, 2018, Mitochondrial Ca2+ retention capacity assay and Ca2+-triggered mitochondrial swelling assay, J Visualized Experiments 135: 56236.
Swelling assayとCa retention capacity(CRC)assayの手法の紹介論文。Swelling assayではリン酸、カリウム、リンゴ酸、グルタミン酸(もしくはこれら2物質の代わりにコハク酸)、ロテノンを含むバッファーで540 nmの経時変化を見る。
原理について下のような一文がありました。引用されているAllmanら(1990)はちゃんと読んでませんが、ミトコンドリアではなく細胞のサイズと吸光度に関する論文のようです。
Mitochondria volume can be directly determined by forward angle light scattering (Allman et al., 1990, Cytometry), where decreases in the absorbance reflect passive swelling of the mitochondrial matrix.
要はオルガネラや細胞のサイズと散乱光強度の関係を見ているということみたいですが、やっぱり特異的な検出ではないので、微妙な手法だと言われればその通りかも。でも簡単で伝統的にやられているから今でもよく使われているという感じでしょうか。
Menze MA, Hutchinson K, Laborde SM, Hand SC, 2005, Mitochondrial permeability transition in the crustacean Artemia franciscana: absence of a calcium-regulated pore in the face of profound calcium storage, American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology 289(1): R68-R76.
Swelling assayについて色々眺めてて見つけた論文。貧酸素に耐性のあるアルテミアでは、カルシウムを1 mMまで与えてもswelling(=A540の低下)もCaの取り込みの限界も見られなかった、つまりミトコンドリア膜透過性遷移(mPT)は生じなかったそうです。
この論文でも、540 nmが減少するはミトコンドリアのボリュームの指標だと書いています。さらにCaを与えたときに哺乳類とは異なり540 nmが増加していますが、それはミトコンドリアのボリュームが減少しているのではなくてリンとカルシウムの錯体が形成されて、マトリックスのrefractive indexを増加させているからだとも書いています。
Sekine S, Kimura T, Motoyama M, Shitara Y, Wakazono H, Oida H, Horie T, 2013, The role of cyclophilin D in interspecies differences in susceptibility to hepatotoxic drug-induced mitochondrial injury, Biochemical Pharmacology 86(10): 1507-1514.
ある薬剤Aの肝毒性についての論文。肝毒性はミトコンドリアの機能障害が関与しているため、膜電位と膜透過性遷移(=swelling assay)を調べています。マウスの肝臓ミトコンドリアは薬剤Aに対して膜電位・透過性遷移の感受性が、ラット、カニクイザルに比べ2~4倍くらい低かったが、この差にはmPTPの構成分子であるシクロフィリンDが関連していそうとのことです。
(追記2023.03.30)
Paul MK, Rajinder K, Mukhopadhyay AK, 2008, Characterization of rat liver mitochondrial permeability transition pore by using mitochondrial swelling assay, Afr J Pharm Pharmacol 2(2), 14-21.
Swollenなミトコンドリアの電子顕微鏡TEM画像あり。内膜と外膜が離れて、クリステが消失しています。