底生生物への金属の毒性と、bioaccumulationとの関連。粒子態の金属の寄与、dietary exposure routesの寄与をどう考えるか、そのへんの問題に対するヒントを探る目的で読んでみました。
「水生無脊椎動物における金属の毒性・摂取・蓄積―甲殻類における亜鉛」
Rainbow P.S. and Luoma S.N., 2011, Metal toxicity, uptake and bioaccumulation in aquatic invertebrates—modelling zinc in crustaceans, Aquatic Toxicol., 105 (3), 455-465.
この人たち総説をいっぱい出していてどれを読めばよいか迷いましたが、とりあえず新しめのを選択。
毒性を考えるときには、体内に蓄積された亜鉛の全量より、"metabolically available fraction"を指標にした方が良いという話。ヨコエビの場合、亜鉛はventral caecaのリソソームにリン酸亜鉛として無害化されて蓄積されるのだ、とかなり詳しく書かれているのが面白かったです。亜鉛は必須元素なので、どの程度までは必須なのかを推定している議論も、詳しくは追えてませんが、なるほどと思わされた。
環境基準の設定とか広い視点での応用(?)を考える感じではなく、メカニズム探求的。また、蓄積と毒性影響との関係がメインの論文ですが、個人的には、環境中濃度と生物への影響との関係について、もう少し議論が欲しかったです。
「堆積物職者の非致死影響の予測における細胞内の金属分配と動態との重要性」
Campana O., Taylor A.M., Blasco J., Maher W.A., and Simpson S.L., 2015, Importance of subcellular metal partitioning and kinetics to predicting sublethal effects of copper in two deposit-feeding organisms, Environ. Sci. Technol., 49(3), 1806-1814.
二枚貝とヨコエビとにおける、銅のaccumulationを調べた論文。accumulationは、単純な総量ではなく"Metabolically available fraction (MAF)"と"Biologically detoxified metal (BDM)"という画分を調べてます。基本的には遠心分離によって分画。
ヨコエビと二枚貝では、重金属摂取の戦略が全然違う。ヨコエビは取り込んだ金属の多くを排出してしまうのであまり蓄積しない。一方、二枚貝は取り込んだ金属の多く(60%と推定)を 無害化して貯蓄する。ここまでは既往研究での推測と一致してます(上の総説でも似たような話があります)。
この論文のメインは、その先のFig.3。ヨコエビと二枚貝の戦略は大きく違うのに、体内のMAF濃度は同程度。なのでMAFをベースにしてEC50を計算すると、両種で同程度の値になるといいます。それでMAFは(生物種によらず)毒性の良い指標になるんではないか、という論旨だと思いますが、なんせ2種(の各1種のendpoint)だけの比較なのでちょっと弱いかな。でもまあ面白かったです。
底質中Cu濃度が毒性の指標になるかどうか、この論文では言及されてなかったので、Supporting Informationの値を使って簡単に図示してみました(下図, 赤色が論文中に示されているもの)。単純に毒性の指標になるかどうか、という意味で言えば、別にMAFでなくても粒子中Cu濃度で良さそうです。そういう点でもちょっと弱い。