備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 底質環境における金属の毒性 ~bioaccumulationとの関連~

底生生物への金属の毒性と、bioaccumulationとの関連。粒子態の金属の寄与、dietary exposure routesの寄与をどう考えるか、そのへんの問題に対するヒントを探る目的で読んでみました。

 

 「水生無脊椎動物における金属の毒性・摂取・蓄積―甲殻類における亜鉛

Rainbow P.S. and Luoma S.N., 2011, Metal toxicity, uptake and bioaccumulation in aquatic invertebrates—modelling zinc in crustaceans, Aquatic Toxicol., 105 (3), 455-465.

この人たち総説をいっぱい出していてどれを読めばよいか迷いましたが、とりあえず新しめのを選択。

毒性を考えるときには、体内に蓄積された亜鉛の全量より、"metabolically available fraction"を指標にした方が良いという話。ヨコエビの場合、亜鉛はventral caecaのリソソームにリン酸亜鉛として無害化されて蓄積されるのだ、とかなり詳しく書かれているのが面白かったです。亜鉛は必須元素なので、どの程度までは必須なのかを推定している議論も、詳しくは追えてませんが、なるほどと思わされた。

環境基準の設定とか広い視点での応用(?)を考える感じではなく、メカニズム探求的。また、蓄積と毒性影響との関係がメインの論文ですが、個人的には、環境中濃度と生物への影響との関係について、もう少し議論が欲しかったです。

 

 

 「堆積物職者の非致死影響の予測における細胞内の金属分配と動態との重要性

Campana O., Taylor A.M., Blasco J., Maher W.A., and Simpson S.L., 2015, Importance of subcellular metal partitioning and kinetics to predicting sublethal effects of copper in two deposit-feeding organisms, Environ. Sci. Technol., 49(3), 1806-1814.

二枚貝ヨコエビとにおける、銅のaccumulationを調べた論文。accumulationは、単純な総量ではなく"Metabolically available fraction (MAF)"と"Biologically detoxified metal (BDM)"という画分を調べてます。基本的には遠心分離によって分画。

ヨコエビ二枚貝では、重金属摂取の戦略が全然違う。ヨコエビは取り込んだ金属の多くを排出してしまうのであまり蓄積しない。一方、二枚貝は取り込んだ金属の多く(60%と推定)を 無害化して貯蓄する。ここまでは既往研究での推測と一致してます(上の総説でも似たような話があります)。

この論文のメインは、その先のFig.3。ヨコエビ二枚貝の戦略は大きく違うのに、体内のMAF濃度は同程度。なのでMAFをベースにしてEC50を計算すると、両種で同程度の値になるといいます。それでMAFは(生物種によらず)毒性の良い指標になるんではないか、という論旨だと思いますが、なんせ2種(の各1種のendpoint)だけの比較なのでちょっと弱いかな。でもまあ面白かったです。 

底質中Cu濃度が毒性の指標になるかどうか、この論文では言及されてなかったので、Supporting Informationの値を使って簡単に図示してみました(下図, 赤色が論文中に示されているもの)。単純に毒性の指標になるかどうか、という意味で言えば、別にMAFでなくても粒子中Cu濃度で良さそうです。そういう点でもちょっと弱い。 

 

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図:ヨコエビの場合

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図:二枚貝の場合

論文のメモ: 底質試験における細粒分の影響

底質試験はふつうの水系の毒性試験に比べて交絡因子が多くなりがちです。細粒分含有率もそのひとつ。 似たような話はこのへんにも。

 

カイミジンコを用いた底質試験における細粒分の影響

Casado-Martinez M.C., Burga-Pérez K.F., Bebon R., Férard J.F., Vermeirssen E.L., and Werner I., 2016, The sediment-contact test using the ostracod Heterocypris incongruens: Effect of fine sediments and determination of toxicity thresholds, Chemosphere, 151, 220-224.

図1つ、表2つのshort communication。底質試験のconfounding factorになりがちな細粒分含有率に対する、カイミジンコの応答を調べた研究。

砂とカオリンを混合した人工底質と、きれいな環境底質で6日間の生存試験を実施。体長と致死がエンドポイント。細粒分が多いほど、体長が阻害されるという結果。(致死は細粒分との明確な関連見られず。)

環境底質だと細粒分が多いほど汚染物質も吸着してるから、そのconfounding factorじゃないの?という話になりますが、人工底質ではその説明は通じにくいです。そこで筆者らが言うのは、カオリンを食べたことで餌の藻類を食べなくなったからではないかという説。なんじゃそりゃ。粒径分布ごとの有機含有量とか濁度(カオリンによる物理的な鰓づまりを調べる)とか、他にもいろいろ調べていくと面白そう。

 

「汽水産ヨコエビL. plumulosusを用いた慢性底質試験の開発

Emery V.L., Moore D.W., Gray B.R., Duke B.M., Gibson A.B., Wright R.B. and Farrar, J.D., 1997, Development of a chronic sublethal sediment bioassay using the estuarine amphipod Leptocheirus plumulosus (Shoemaker), Environ. Toxicol. Chem., 16(9), 1912-1920.

あまりちゃんと読んでません。上の論文で引用されてました。

きれいな環境底質にカオリンか砂を混ぜてヨコエビL. plumulosusの28日間試験を実施。カオリンが多いとやはり死んでしまう様子。窒息が原因か。砂が多すぎると疲れるからか、生存率・繁殖ともに良くないみたい。

論文のメモ: 底質の何%が路面堆積物に由来するのか

路面上に堆積している塵埃は雨天時に水域に運ばれます。水に溶けにくい、あるいは分解されにくい物質は水域の底質として蓄積していきます。では、底質の何%が路面堆積物に由来するのか。その割合を調べた論文たち。

 

「総説:タイヤの摩耗粒子の発生と影響

Wik A. and Dave G., 2009, Occurrence and effects of tire wear particles in the environment – A critical review and an initial risk assessment, Environ. Pollut., 157 (1), 1-11.

タイヤの分子マーカーとして使用されているベンゾチアゾール類などを測定した既往文献のレビューによって、上に書いたような推定をしてます。いわく底質中のタイヤ由来粒子の割合は、0~15.5% w/wだそうです。

意外と割合が高いなと思いましたが、どうも推定方法が妥当かびみょうな気が…。"Based on the reported concentration of the tire marker in the environment and its concentration in tire tread, the corresponding concentration of tire wear particles in the environment was calculated."が「タイヤ濃度」の推定法。物質Aの環境中濃度x mg/kgを、タイヤ中の物質A含有率y%で割って環境中のタイや濃度を求めてる様子。タイヤがまるごと環境中に出ていくんじゃないのに、こういう方法で良いのでしょうか。

 

「タイヤ由来分子マーカーとしてのベンゾチアゾールアミン

Kumata H., Yamada J., Masuda K., Takada H., Sato Y., Sakurai T. and Fujiwara K., 2002, Benzothiazolamines as tire-derived molecular markers: sorptive behavior in street runoff and application to source apportioning, Environ Sci Technol., 36 (4), 702-708. 

こちらの推定方法の方が信頼できます。

底質中と路面排水中とにおけるベンゾチアゾール類(ここではNCBA)濃度を比較して、底質の何%が路面排水由来なのかを推定してます。いわく0.8~6.8%だそうです。

ちなみに筆者らの先行研究で、底質中と道路塵埃とにおける(NCBAではなく、より親水性の)24MoBT濃度を比較したところ、平均13%または25%になったとか。これだと上の総説とも一致する範囲です。感覚的には多いけれど。

流出中の分配の話はちょっとフォローしきれてないので再読必要。

論文のメモ: 在来種とそれ以外の種でのSSD

先日の環境毒性学会の話を先生としてたら、「SSD(Species sensitivity distribution)って日本にいない種で作っても良いの?」と言う話になりました。

感覚的には日本にいない種でSSDやHC5を推定しても、日本にいる種で推定した場合とあまり変わりがなさそうですが、どんぴしゃの内容の論文がありました。

 

「非ネイティブの種に基づく水質基準はネイティブ種を守ることができるか?

Jin X., Wang Z., Wang Y., Lv Y., Rao K., Jin W., Giesy J.P. and Leung K.M., 2015, Do water quality criteria based on nonnative species provide appropriate protection for native species?. Environ. Toxicol. Chem., 34(8), 1793-1798.

在来種のデータを用いて算出したHC5と、在来種以外のデータに基づくHC5を比較したメタ分析論文。全部で38種の化学物質のデータを集めてます。うち21種は1つの論文(Fedorenkova et al., 2013, Aquatic Invasions)のデータで、ちょっとどうかと思いましたが…。データ元の論文は確認してません。

38物質のうち19物質で、HC5の差は2倍未満。HC5が10倍以上異なったのは6物質で、そのうち「在来種のHC5 < 在来種以外のHC5」だったのは4物質でした。この結果から、不確実係数10倍を使えば、在来種の90%(=4/38)は守れるだろう、と結論付けてます。

ちなみに"the problem of lack of toxicity data for native species exists not ony for in China but also in other countries and regions such as Australia, Japan, Korea, South Africa, and Southeast Asia"と、在来種のデータ不足は日本も例外じゃないと指摘されてます。

 

 

この論文のような方法を使えば、在来種を用いるかどうかの根拠づけは出来ると思います。ただ在来種で良いのか問題は実は、気持ちの問題もあるかもしれないですね。説得力というか。

あとこの論文では明確に言及されてませんが、SSDのデータのもとになっている毒性試験のプロトコルが国や地域によって違えば、その影響はかなり大きいかも? 試験生物の感受性そのものより、試験水の水質などの実験条件の影響。

環境毒性学会 @ 愛媛大

今年も参加しました。あれぐらいの規模の学会が一番楽しいかも。教室1つに参加者全員が収まるくらいの規模。口頭・ポスター併せて発表数50くらい?

  • 自身のポスター発表ではフルボッコにされたけど、間違いを発見できて良かった。
  • ネオニコの発表多め。
  • 企画セッションが2つあって、どちらも面白かった。NさんのSSD(種感受性分布)+分位点回帰+複合影響モデルの話は、夢があって興奮した。
  • レギュラトリーサイエンスについてのセッション。印象に残ったのは、無理に一般化しようとせず地域の特殊性など考えて個々の事例を大事にしよう、というこれまたNさんの主張(たしかこんな感じで合ってるはず)。環境科学は調査地域を変えただけの銅鉄実験が多すぎ、という批判的な語られ方はこれまでよく聞いてきましたが、肯定的にとらえていたのでなるほどと思いました。
  • Hさんが言ってた「行政の方から出てきたイシューを学会が追うのではなく、逆の流れがもっとあっても良い」的なメッセージも、刺さりました。
  • 懇親会では去年より色んな人と話ができて良かった。しかしもうちょい積極的にがんばらないと。

 

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道後温泉本館。2階の神の湯に入りました。いわゆる温泉より銭湯の方が、イメージは近いかも。

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ちゅうちゅうゼリー激うま。ゼリーだけど、なんとなくフレッシュな感じ。お土産にお薦めです。

博士論文の審査会

7月末に終わりました。

夕方5時から、45分の口頭発表と45分の質疑応答。それから主査と副査で非公開の審議によって、合否の判定。審議はおよそ15分ほど。

審議の後、「合格です」とかそういった類の言葉を聞けるかと思って主査の先生のもとへ行ったら、博士論文の修正点についての議論がいつの間にか始まってました。合否について、明確な言及は全くないままに…。自分から先生に確認するタイミングも完全に失ってました。

 

以下、審査会や博士の研究について。思いつくまま書いてみます。

 

■審査での質疑応答

予備審査でもそうでしたが、細かい点についてはあまり突っ込まれませんでした。論文の目的とか、インパクトとか、論理的な一貫性などに関する、根本的な質疑がメインでしたね。技術的な質問もありましたが、それは論文の結論に影響してくる重要なものだから聞いてるという感じ。それら以外の質問やコメントは、事前に渡していた原稿に書いて頂いていました。

45分の質疑は短かったです。もっと言いたいことがあるという顔をしている先生方もいました。

 

■審査後のスケジュール

審査会で頂いたコメントを受けて博士論文を修正します。その締め切りが 8月末でした。審査会から約1カ月ですね。ただ、修正点について主査・副査の先生方からOKを頂かないといけないことや、論文はハードカバーで製本して提出しなければならないことを考慮すると、実質的な締め切りは8月10日あたりでした。なかなかの時間不足でした。その間に投稿論文のrejectを受けて、対応しなければならなかったり…。

 

■博士の研究

博士の3年間は、これまででいちばん充実していると思えました。何より研究が楽しかったです。できる範囲で自分のやりたい研究をやらせてもらえたし、学科の雰囲気はのんびりしていて、人間関係でストレスを受けることもほとんどなかったです。辞めていった博士は結構いましたけど…。

 

まあでも、こういうポジティブな話は他でもしてるので、ここではもうちょいネガティブな内容、反省というか愚痴も吐き出したいと思います。記録として。

最も強く反省するのは、自分の中の違和感に向き合うべきだったこと

D1始めの研究計画は、流行りに乗っかって(2013年だからちょっと遅めか?)、次世代シーケンサーNGS)ありきで立ててました。NGSで大量のデータを取得して云々していくものでした。ただ研究資金の制約からNGSを使えなさそうだと分かり、古典的な手法に頼ることになりました。そこで本来ならば研究目的や計画を見つめなおすべきだったのです。しかし自分は、NGSという手法の新しさに依存していた元の目的を変更しせず、研究を進めました。D3になってようやく「この(古典的な)手法だと元の目的を達成するの無理じゃね?」*1と悟り、用いた手法に合致するよう目的を無理やり変更しました。とはいえ、実験は既にやり終えてますから、結果は変えられません。この実験結果が、変更後の目的を達成したというには不十分だったんですよね。あるいは結果によっては目的との関連が薄く、宙ぶらりんになってました。しかし時既に遅し。追加実験できず。最終的に、なんともちぐはぐな博士論文になりました。

上に書いた通り「NGS高いから使えんわ」となった時点で元の研究目的を見つめなおすべきでした。そうしていれば、宙ぶらりんな章の誕生を防げただろうし、時間に余裕ができて追加実験もできたかも。

実際、進捗を発表する機会は幾度もあり、その度かすかな違和感を覚えてました。何か計画・目的がおかしいな、と。非常に漠然とはしてましたが。そこで少し立ち止まって考えるべきでした。実験を始めてしまうと、その結果の解釈やらなんやらに気持ちと時間を取られてしまって、目的や意義という根本的なところに中々目を向けられないんですね。

 

なら、どうすれば研究の目的や意義を立ち止まって考えられたのか、とここまで書いてきて思いましたが、やはり論文を書くのがベストでしょうか。論文を書くという行為は、目的から手法、結果、解釈、後続の研究や社会へのインパクトなど、全てを含めて研究を見つめなおすことですから。自分の場合は、D3になってようやく投稿論文や博士論文を執筆する過程で上述の違和感が明瞭になったので。結局、こまめに研究を論文にまとめて投稿しよう、というベタな教訓になるのか…。学会や学内での口頭発表や研究費申請書ぐらいでは、結構ごまかしが効いてしまうように思うので、やはりfull paperがベスト。

 

*1:より正確には、結果の質を保ったまま元の目的を達成するには、やはりNGSを使うのがで最良であって、なぜ古典的手法を用いたのかという問いには研究資金の制約としか言えなかった。

論文のメモ: 都市環境における農薬の分布

以前、道路での除草剤・殺虫剤散布について調べました。その時は有益な情報をあまり見つけられなかったので、新たに情報を追加してみました。

 

「都市における塵埃粒子中の殺虫剤の分布

Richards J., Reif R., Luo Y., and Gan J., 2016, Distribution of pesticides in dust particles in urban environments, Environ. Pollut., 214, 290-298.

ピレスロイド系殺虫剤8種とフィプロニルおよびその分解産物を対象にして、塵埃中の濃度を調べた研究。カリフォルニアの20コの家庭で3箇所ずつ(私道部分? driveway・側溝curbside gutter・面している道路の中央)から塵埃を採取。

全441サンプル中、98.2%のサンプルで少なくとも1種の殺虫剤が検出されたそうな。乾季の8~10月に塵埃中濃度は高く、雨季後の2月に低かった。家周りでの地点(driveway, gutter, street)による明確な濃度の差はなかった。検出された濃度レベルが高いのか低いのか、水域に流出されたらどれくらいの影響を引き起こしそうか、などの議論はなし。

家に庭があるアメリカの結果だから、日本では大分違う話になるんでしょうか。

 

 

日本での農薬の使用について、経産省がまとめてました。PRTR制度の届出外排出量調査。

平成26度 届出外排出量の推計方法等に係わる資料(METI/経済産業省)

例えば上の論文で検討されていたフィプロニルは田畑での使用がメインで、家庭や「その他の非農耕地」では使われてないみたいです。ピレスロイド系殺虫剤のペルメトリン家庭や「その他の非農耕地」でも使われてるみたいですが、その使用量は少なめ。「その他の非農耕地」での推定排出量が多いのは、除草剤のジクロベニル(ニトリル系)・ブロマシル(有機臭素系)・メコプロップ(フェノキシ酸系)・ジウロン(尿素系)、殺虫剤のフェニトロチオン有機リン系)、そして臭化メチルなど。

 

 

Jiang W., Luo Y., Conkle J.L., Li J. and Gan J., 2015, Pesticides on residential outdoor surfaces: environmental impacts and aquatic toxicity, Pest Manag. Sci., 72 (7), 1411-1420. 

上の論文で引用されていた、同じ研究グループによる論文。こっちの論文ではヨコエビを用いた毒性試験もおこない、毒性影響の有無を議論してます。

勉強量は人工知能に追いつけない

いやはや、すごい。2,000万本のがん研究論文を人工知能に学習させて、実際の診断に役立てられたという話。

25歳から60歳まで毎日1本の論文を読んでも、せいぜい1万2,000本ほどしか読めません。今までに自分が読んだ論文なんて、1,000本のオーダーでしょう。そう考えると2,000万本ってえげつない。というか、がん関連の研究だけでそれほど論文数があるとは…。

いずれは2,000万本の論文の部分も機械によって自動化されていくと思うと(生態毒性関連でも毒性データ集めは一部自動化されているとどこかで聞いた気がするし。EPAのToxCast?)、夢が広がります。

 

ちょうど3年前に研究計画を立てた際、こういう網羅的なデータに基づく診断を生態毒性に応用できないもんかと考えてましたが、今思うと節操なく流行りに乗っかってたなぁ。例えばその辺で泳いでる魚を釣って、遺伝子発現を見てみる。発現データをもとに、魚がどういうストレスを受けているか人工知能が診断してくれる。結果をもとに汚染対策につなげる、みたいな。

今出てる論文の多くは、人工知能の代わりにヒトが文献を読んで人力診断しているんですが、上のニュースを聞いたら誤診である可能性も結構高い気がしてきました。みんなせいぜい数十本しか論文引用してないですし。

論文のメモ: ヨコエビの曝露試験による環境底質の汚染評価

急性致死影響が出ないレベルの汚染底質を主な対象として、ヨコエビの曝露試験を実施した論文たち。古典論文多め。

 

「非汚染底質におけるヨコエビ二枚貝の成長

Nipper M.G. and Roper D.S., 1995, Growth of an amphipod and a bivalve in uncontaminated sediments: Implications for chronic toxicity assessments, Mar. Pollut. Bull., 31 (4), 424-430.

非汚染地域から採取した地点の底泥2種、泥タイプと砂タイプとを混合して10~30日間の生存試験を実施した研究。ヨコエビは海産のChaetocorophium cf. lucasi を使用。

砂タイプの底質の比率が増すと生存率、成長率が低下したという結果。ただし底質は2種類しか用いてないので、粒径そのものの影響か有機含量による影響か不明。砂タイプの底質はTOC 0.12~0.27%しかないので、おそらく成長に必要な栄養が不足していたのではないかと思いましたが(餌は別に投与しているが)、まあ結構適当な論文。

  

H. aztecaを用いた底質毒性試験における非致死エンドポイントの利用

Ingersoll C.G., Brunson E.L., Dwyer F.J., Hardesty D.K. and Kemble N.E., 1998, Use of sublethal endpoints in sediment toxicity tests with the amphipod Hyalella azteca, Environ. Toxicol. Chem., 17 (8), 1508-1523.

たぶん淡水産ヨコエビHyalella aztecaを用いたEPAの慢性試験標準法の元になった論文。論文の中心部分は読み飛ばし、discussionの後半部分(Table 8あたり)のみを読みました。

環境底質を対象に14日間の曝露試験を実施したところ、4%の底質で生存・成長に影響あり、20%の底質で生存のみ影響あり、16%の底質で成長のみ影響ありだったそうです。28日間の曝露試験でも同様の結果。成長の方が常にsensitiveというわけでもない。

14日間の成長阻害が28日間の致死や繁殖阻害の予測に使えるかどうか知りたかったのですが、その関係についての記載はありませんでした。

  

H. aztecaを用いた10日間底質毒性試験:成長に関するエンドポイントの比較

Steevens J.A. and Benson W.H., 1998, Hyalella azteca 10‐day sediment toxicity test: Comparison of growth measurement endpoints, Environ. Toxicol. Water Quality, 13 (3), 243-248.

すごいシンプルな論文。3つの底質に10日間H. aztecaを曝露させて、体長と乾燥重量を測定したもの。それぞれの検出力とminimum detectable differenceを計算してます。そもそもH. aztecaは0.01 gほどで軽いから、乾燥重量より体長を指標にしようというのが結論でした。

 

H. azteca 10日試験とバクテリア発光試験とを用いた人工湿地の毒性評価

Steevens J.A., Vansal S.S., Kallies K.W., Knight S.S., Cooper, C.M., and Benson, W.H., 1998, Toxicological evaluation of constructed wetland habitat sediments utilizing Hyalella azteca 10-day sediment toxicity test and bacterial bioluminescence, Chemosphere, 36(15), 3167-3180.

数地点の環境底質を年6回、発光バクテリアH. aztecaで毒性評価した研究。発光バクテリアでは底質の保存期間(4°C)を0~60日間に変えて試験もしてます。保存期間が長くなるほど毒性は減少してます。

 

「汽水域底質の急性毒性

Dewitt T.H., Swartz R.C. and Lamberson J.O., 1989, Measuring the acute toxicity of estuarine sediments, Environ. Toxicol. Chem., 8 (11), 1035-1048.

汽水産ヨコエビEohaustorius estuariusが汽水域底質の毒性試験種として適当かを調べた論文。対象としてRhepoxynius abroniusHyalella azteca(淡水)も使用されてます。異なる塩分下(2-28 ppt)でのフルオランテンの10d-LC50を求めたり、汚染底質でのdose response関係を得たり色々してます。

今回特に注目したのは、Puget Soundというところの42地点から採取した「非汚染底質」で実施した10日間の生存試験の話。全サンプルの平均生存率は97%で、全体的には確かに「非汚染底質」なのですが、中には生存率50%を切ったり10%というサンプルもあります。生存率の低かったサンプルは、底質の細粒分含有率が高いものでした。そこでこの論文では、粒子が細かいと生存率が低下するという筋書きを書いてるのですが、正直すんなりと納得はできませんでした。細粒含有率が高いほど、有害物質濃度も高いのでその影響を考えないわけにはいかないでしょう。粒径分布に対する感受性を見たければ、精製+サイズ分画した人工底質を使ってみるべきでは。

 

 (追記2017.09.23)

「サンタモニカ・ベイにおける汽水域底質の急性毒性評価

Greenstein D, Bay S, Jirik A, Brown J, Alexander C. 2003. Toxicity assessment of sediment cores from Santa Monica Bay, California. Mar Environ Res 56: 277-297.

汽水産ヨコエビGrandidierella japonicaとウニStrongylocentrotus purpuratusを用いて、サンタモニカ・ベイの底質コアサンプルを年代ごとに区切って急性曝露試験をした論文。ヨコエビもウニも、それほど急性毒性は示さず。例えばヨコエビだと、生存率がcontrolの40%以下だったのは全25地点中わずか1点のみ。A. abditaE. estuariusなど他のヨコエビを用いた急性毒性試験でも同様にほぼ毒性が見られなかったと考察に書いているので、このヨコエビ試験の感受性が低いということでもなさそう。DDT濃度が高くERMを超えている地点でも、全く生存率に影響していない。Swartzら(1994)と共通している結果。

論文のメモ: NGSのコスト

NGSでのシーケンス費用について。

論文等で報告されているものを整理してみました。IlluminaのHiseqを使ってRNA-seqしたものを対象にしてます。

 

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1US$は110円として計算しました。外注委託の見積もり価格はもっと高くなってるけどなぜ?例えばここでは4Gbで14万円だから、1Mb当たり35円。全然ちゃうやん。上の表の中でもSboner et al. (2011) などはライブラリ調整費用も含んでるみたいですし、なぜでしょう。委託と自前解析の差?

根本的なとこで思い違いしているかも。

 

参考にした文献は下。

近藤直人, 2012, NGS購入ガイド(必要なもの), 細胞工学別冊: 次世代シークエンサー 目的別アドバンストメソッド, p. 17-24, 監修: 菅野純夫, 鈴木譲, 学研メディカル秀潤社.
Sboner A., Mu X.J., Greenbaum D., Auerbach R.K. and Gerstein M.B., 2011, The real cost of sequencing: higher than you think, Genome Biol., 12 (8), 125.

あとこのサイト→https://wikis.utexas.edu/display/GSAF/Pricing