備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

環境化学・生態毒性関連の査読付き雑誌に関する所感 ~2024年1月時点~

環境化学および生態毒性関連の査読付き雑誌(ジャーナル)についての所感。現時点で思ったことを記録として残しておきます。誰かに提言しているわけではなく、将来の自分のために個人的なスタンスを書き残しているという感じ。想定しているのは以下の表のような雑誌。

 

雑誌名 出版社 Impact factor (2022)
Journal of Hazardous Materials Elsevier 13.6
Journal of Hazardous Materials Letters Elsevier
Water Research Elsevier 12.8
Environment International Elsevier 11.8
Environmental Science & Technology ACS 11.4
Environmental Science & Technology Letters ACS 10.9
Science of Total Environment Elsevier 9.8
Environmental Pollution Elsevier 8.9
Chemosphre Elsevier 8.8
Ecotoxicology and Environmental Safety Elsevier 6.8
Marine Pollution Bulletin Elsevier 5.8
Environmental Science and Pollution Research Springer Nature 5.8
Environmental Science: Processes & Impacts RSC 5.5
Toxics MDPI 4.6
Aquatic Toxicology Elsevier 4.5
Environmental Toxicology & Chemistry Wiley 4.1
Archives of Environmental Contamination and Toxicology Springer Nature 4.0
Toxicological Sciences Oxford Univ. 3.8
Water MDPI 3.4
Integrated Environmental Assessment and Management Wiley 3.1
Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology Springer Nature 2.7
Environmental Monitoring and Contaminants Research JSTAGE
Journal of Water and Environment Technology JSTAGE
Japanese Journal of Environmental Toxicology JSTAGE

は環境系の総合誌環境化学や生態毒性に限定されないテーマを扱っている雑誌。Water Res. とWater、JWETはそもそも少し分野が違うかもしれませんが、何となく載せてます。

 

 

Impact factorについて

上の表を作ってHAZMAT(J Hazardous Materials)のIFの高さにびっくり。Elsevierのウェブサイトを見ると、2018年は7.7、2019年は9.0、2020年は10.6、2021年は14.2なのでここ2年ほどで急増している感じですね。なぜかは知りません。それほど優れた論文が多い印象は正直ありませんが、これは私の見ている範囲の問題かもしれません。

STOTEN(Science of Total ...)もここ数年でIFが増えた印象でしたが、2018年は5.6だったようなので元からHAZMATよりは低かったんですね。個人的にHAZMATはあまり読みませんが、STOTENは眺めることが多いです。STOTENのIFが上がり始めた2019~2020年くらいに「しょうもない論文が多くなってきたな」と思った記憶がありますが、2023年の今は結構面白い論文も多い印象を受けます。未だ玉石混交ですが、玉の割合が多くなってきたような。もっとも根拠ゼロの体感でしかないです。IFにつられて良い論文が集まりやすくなったのでしょうか。

一方、Aquatic ToxicologyやET&C(Environmental Toxicology & Chemistry)はIFがあまり増加していないため、相対的な地位は低下しています。それに伴ってか、最近は質が低い論文を以前より目にすることが多くなった気がします。これも根拠ゼロの体感ですが。ET&Cは、SETACの旗艦誌(flagship journal)なので、今でも面白い論文や大人数が集まってのオピニオン論文みたいなのはそれなりに掲載されていますがね。しかし両者ともまさかMDPIのToxicsにIFが抜かされているとは…。

ES&Tはそれなりに信頼しています。やっぱりEditorの権限が強くて査読者に頼り切っていないのが査読の過程から感じとれますが、そこが論文の質につながっているのかもしれません。

 

ElsevierとSpringer Nature・MDPIには投稿しない

これは個人的なこだわり。ElsevierやSpringer Natureの暴利を貪る姿勢には辟易しているので、なるべくこれらの雑誌には投稿しないようにしています。学術誌の購読料・掲載料高騰は「有名雑誌に掲載したいという研究者のスケベ心」が引き起こしているという指摘(by @the_kawagucci)にかなり賛同していて、自分自身でできることをやろうという考えです。もっとも有名雑誌に載せる理由は別に報酬目当てや名誉欲だけではなく、論文の反応が得られやすい・引用されやすい、あるいは査読の質が高いという点もあるとは思いますが。

ただこのこだわりは、自身が第一著者や責任著者の論文に限っています。特に若い研究者が第一著者の場合は、Elsevierの雑誌の高いImpact Factorや速い査読期間に強い魅力があるのも事実なので。ある程度の実績を得てきたからこういったこだわりを表明できるのであり、ポジショントークだとは認識しています…。

ElsevierやSpringer Natureを除くと、WileyのET&CかACSのES&T、RCSのESP&I、あとはJ-STAGEの雑誌くらいしかこの業界の雑誌はありません。環境学というより毒性学ですがOxfordのTox Sciもアリでしょうか。こういうところの雑誌を盛り上げていければなぁと思います。

 

 

論文のメモ: ToxCast/Tox21によるin vivoの生態毒性予測の可能性

Palomares IMR, Bone AJ, 2024, Predictive value of the ToxCast/Tox21 high throughput toxicity screening data for approximating in vivo ecotoxicity endpoints and ecotoxicological risk in eco-surveillance applications, Sci Total Environ 169783.

Schaupp et al. (2023) と同じようにin vitroのハイスループットスクリーニング試験(HTS)をin vivoの生態毒性予測に活かせるかというモチベーションの論文。

非常にざっくり書くと、Schaupp et al. (2023) と同じ目的で、異なるデータベース・解析方法で再検討して、「ToxCastと生態毒性のin vivo毒性値は相関がほとんどない」ことを述べています。なおin vivoのデータとして使用されたのは、EnviroToxデータベースの毒性値やPosthumaのSSD(Species sensitivity distribution)の慢性HC5、NORMANデータベースのPNEC、USEPAの農薬ベンチマークの4種。一方in vitroの毒性値にはACC(Activity concentration at cut-off)というLOEC的なものとAC50を使用。全てのアッセイを対象にするだけでなく、ZebrafishのFET試験や、cytotoxiciyに関するアッセイだけを解析するなど、ToxCastの解析法もいくつか検討しています。

また、神経毒性物質やAChE阻害物はin vivoの毒性値の方が低い(=conservative)ことや、逆に溶媒や界面活性剤ではin vivoの毒性値の方が高いことも示されています。前者は、魚類の胚試験も含むin vitroの弱点として良く言われていることですね。溶媒などについては、これらの毒性が特異的ではない、narcoticなものだからではないかと考察されています。

さらに、河川の化学物質モニタリングデータ(Waterbase Water Quality ICM database)と併せて、ToxCastのデータでリスクの高い物質を優先順位付けするのは妥当なのかどうかを検討しています。上に書いたようなことから、正直妥当とは言い切れないわけですが。優先順位付けは例えばCorsi et al. (2019) あたりで行われています。

 

Schaupp et al. (2023) と一緒に考えると、現状のin vitroデータから直接的に生態毒性の強さを知ることは上手くいかないと分かります。今後は、生態毒性向けのin vitroデータを蓄積していくことや、現状の哺乳類ベースのin vitroデータを生態毒性向けに適切に変換すること(IVIVE)が重要なのでしょう*1。生態毒性のin vitroでは例えばニジマスのエラ細胞試験が近年OECDのテストガイドライン化され、注目されていますね。

 

 

*1:このためにはこの論文のような検討を少し発展させて、MoAごとにもう少し詳細に見るとか、それぞれの毒性値の分布を詳細に見るとか、できることはあるかも。

論文のメモ: 化学物質曝露による遺伝子発現の時系列変化

化学物質の生物影響を調べる室内実験は、その多くが濃度応答反応を見ていて、時間と応答の関係を見ている研究は比較的少ないです。ここでは化学物質に曝露して、遺伝子発現応答の時間変化を追った研究について。

 

Schüttler A, Altenburger R, Ammar M, Bader-Blukott M, Jakobs G, Knapp J, Krüger J, Reiche K, Wu GM, Busch W, 2019, Map and model—moving from observation to prediction in toxicogenomics, Gigascience 8(6): giz057.

昔読んだ論文(→ここ)。ドイツのUFZなど。ゼブラフィッシュ胚を化学物質に異なる時間・濃度で曝露して、マイクロアレイで発現解析した論文。物質はジクロフェナック、ジウロン、ナプロキセンの3種。曝露時間は3、6、12、24、48、72時間の6点、濃度はLC0.5~LC25の間で6点。連数はよく分かりません。場合によってはn=3ぽいけど、n=1のところもある?ただ1サンプル当たり20個の胚を一緒にしている様子。

時間と濃度を同時に考慮して発現変動をモデリングしようという主張をしていて、既存の公表データを合わせて解析しています。中々重厚です。結果が自己組織化マップ(SOM)で表されていて一見どう解釈して良いか分からない気も…。濃度依存性はヒルの式で数式化して、さらにヒルの式のEC50は対数正規分布モデリングしています。

 

Ankley GT, Villeneuve DL, 2015, Temporal changes in biological responses and uncertainty in assessing risks of endocrine-disrupting chemicals: Insights from intensive time-course studies with fish, Toxicological Sci 144(2): 259-275.

USEPAがファットヘッドミノーを用いて内分泌かく乱作用のある8つの物質の毒性試験をした結果をまとめた論文。ビテロジェニンや血中エストラジオール(E2)、生殖腺におけるアロマターゼ(cyp19a1)やsteroidogenic acute regulatory(STAR)のmRNA発現量の経時変化などを追っています。さらに物質のないところに移してどう回復するのかも見ています。この記事の中でこの論文だけ、網羅的な発現解析ではなく定量PCRです。

詳しくは正直読んでいませんが、例えばケトコナゾールによるE2濃度の上昇は1~2時間で確認できたり、また曝露が済めば1~2日間で対照区レベルまで回復したり。

 

Serra A, Fratello M, Del Giudice G, Saarimäki LA, Paci M, Federico A, Greco D, 2020, TinderMIX: Time-dose integrated modelling of toxicogenomics data, Gigascience 9(5): giaa055.

これもちゃんと読んでません。メモ。マウスやヒトの細胞に化学物質(たぶん主にdrug)を曝露した際の遺伝子発現データベースであるOPEN TG-GATEを再解析した論文。時間と濃度の両方を考慮してモデリング使用という話。POD(Point of depature)を求めることが目的っぽい。

 

Gao C, Weisman D, Lan J, Gou N, Gu AZ, 2015, Toxicity mechanisms identification via gene set enrichment analysis of time-series toxicogenomics data: impact of time and concentration, Environmental Sci Technol 49(7): 4618-4626.

2015年の論文。GFP融合タンパクを組み込んだ大腸菌E. coliを用いて、106個のレポーター遺伝子の発現を5分おきに120分間調べた研究。3つの物質について、6濃度×3 replicatesで実験しています。

CPCA(Common Principal Component Analysis)とTELI(Transcriptional Effect Level Index)の2つの指標でそれぞれ遺伝子をランク付けしてエンリッチメント解析。エンリッチメント解析は、permutation testで実施。なおCPCAでは、合っているか自信ないですが、行に時間、列に遺伝子をとった発現レベルの行列でPCAをして、時間変動の大きい遺伝子を抽出している感じです。TELIは、Gou & Gu(2011, ES&T)で提唱された指標で、横軸に時間、縦軸に開始時からの発現変動レベルをとって、その積分値を計算したもののようです。CPCAとTELIベースのパスウェイエンリッチメント解析の結果は、一致していたりしていなかったり。

この論文、10年ほど前にしてはデータが豊富で、記述もクリアで面白いです。しかしDiscussionでも述べられているように、CPCAは時間による変動の大きい遺伝子を重要だと仮定していますが、この仮定が妥当かどうかは、遺伝子やパスウェイによって異なるでしょう。

 

 

この記事のタイトルに「遺伝子発現の時系列変化」と書きましたが、上のどの論文も、時間と濃度を変数として遺伝子をパターン化・グループ化するのがメインで、時間変化の意味・中身を考察しているのは少数です。例えば、時間変化のパターンからどの遺伝子(群)が上流・下流とか、曝露物質の最初期の分子応答がどの遺伝子でそれがadverse effectにつながるとかのAOP構築的な話をしたりしているわけではないです。Schüttlerら(2019)は若干それに近い議論もしていたり、Ankley & Villeneuve(2015)は少数の遺伝子ながらそのような議論をしていますがデータドリブンの解析ではありません。

もう少し遺伝子間の上流・下流関係に迫っている解析の例はないかなということで読んだのが下の論文です。適当に選んだのでもう少し類似の論文を読みたいところですが、とりあえずひとまとめ。化学物質曝露ではない。

Schlamp F, Delbare SY, Early AM, Wells MT, Basu S, Clark AG, 2021, Dense time-course gene expression profiling of the Drosophila melanogaster innate immune response, BMC Genomics 22(1): 1-22.

ショウジョウバエ大腸菌由来のリポ多糖に曝露して、5日後までの20時点のRNA-Seqをした論文。わずかn=2ですが、その代わり20時点なので全40サンプル。対照群もとらず曝露群だけですが、まぁそんなものなのかも。

時間変化をSpline回帰したり(RのmaSigPro package)、自己相関ベースでクラスタリングしたり(同じくRのTSClust)、周期性を探索したりして(JTK_Cycle; この辺よく分かってない)、時間依存性のある遺伝子群を見つけ出し、さらにそれらの遺伝子群についてはグレンジャー因果性に基づいて遺伝子ネットワークを推定しています。勉強になりそうなので、また後で読む。

 

 

 

2023年によく聞いた音楽

2023年のSpotifyまとめ。12月のまだ1日なのに今年のまとめが出されるのが、ちょっとイヤかも。まだ今年を終わらせないでくれー。

 

今年のTop5。Watson、LEX、LANA、Creepy Nuts、JUMADIBA。日本語ラップばかりのラインナップでした。

Watsonは確かにかなり聞いた印象。ラップが良いのもあるけど、歌詞も可愛げがありますよね。

LEXは2021年のSpotifyまとめにもランクインしてました(→これ)。2021年によく聞いていたBAD HOPやゆるふわギャング、Elle Teressaが今年はランクインしてないのを見ると、自分の中でのLEXのヒットが長い。ゆるふわとかもまだ聞いてますけどね。

LANAがLEXの妹だったことを、今年の10月くらいに知ってびっくり。

Creepy Nutsは、のびしろとかよく聞きました。

JUMADIBAは主体的に選んで聞いた印象があまりないですが、結構好きです。たぶんWatsonとかを聞いているときによく流れていたのだと思います。

 

 

あとはよく聞いた曲のTop 45。

上のメンツ以外だと、BonberoとかCandee、Awichとかが入ってきました。今年は本当に日本語ラップばかりでした。

Awichは今本当に勢いを感じます。全然音楽の話ではないけど、そろそろ研究の世界で中堅と言える年齢の自分としては、Awichの業界を盛り上げる姿勢は見習うべきだなと感じたり。業界の若い衆をフックアップしつつ、外の業界ともつながりを広げていく姿勢ですね。自分の才能を生かして良い曲を作るという意味では、もちろんLEXとか一昔前のKOHHとかの勢いは凄いor凄かったわけですが、Awichの奮闘も素晴らしいなとしみじみ思います。

 

 




 

論文のメモ: ToxCastデータと生態毒性in vivoデータの比較

Schaupp CM, Maloney EM, Mattingly KZ, Olker JH, Villeneuve DL, 2023, Comparison of in silico, in vitro, and in vivo toxicity benchmarks suggests a role for ToxCast data in ecological hazard assessment, Toxicological Sciences 195(2): 145-154.

以前読んだ論文(Schaupp et al., 2022)の続編。ToxCastのようなハイスループットのin vitroアッセイ(HTS; High-Throughput Screening assay)は哺乳類ベースなので、水生生物などの生態リスク評価に使用できるかどうか、よく分かりません。そのへんのHTSの生態リスクへの応用の話は若干古いかもですが、Villeneuve et al. (2019, ET&C) に詳しいです。

この論文は、in vitroなToxCastとin sillicoなQSAR(quantitative structure-activity relationship)、そしてin vivoな毒性値のそれぞれで水生生物に関するPOD(Point-of-departure)を計算して比較した研究です。QSARはUSEPAのECOSARとTESTから、in vivoの毒性値もUSEPAのデータベースECOTOXから集めています。

ToxCastに関しては、多様なアッセイの活性値の分布から求められるACC5(5th centile of activity concentration at cutoff)とcytotoxicity lower boundの2種類をPODとして検討しています。

 

結果、ACC5はECOTOXのin vivoデータと有意な相関を示さず、物質の作用機序(MoA)ごとに見た場合でも、アセチルコリンエステラーゼ阻害の場合のみ有意な相関が見られたとのこと。ただ、cytotoxicity lower boundとECOTOXは有意な相関を示しています。そしてECOTOXの毒性値は概ねnon-specificな毒性を反映しているのだと議論しています。ただFigure 4でも示されているように、相関があると言ってもばらつきは非常に大きくて、PODの比が10倍の範囲内に収まっていない物質の方が多いようです。ACC5-ECOTOXの比較でもcytotoxicity-ECOTOXでも。

細かいが気になった点。ECOTOXのデータとして、生死や繁殖、成長と行動異常や分子・細胞レベルの応答まで集めて、分類して解析しています。急性/慢性の区分や生物分類群(無脊椎/魚類/植物)の区分を設けています。EC50を物質と区分ごとに集めてその最小値をPODとしているとのことですが、「ある物質Xの魚類に対する毒性値」と言っても複数魚種のデータおよび複数文献のデータの中から最小値を選んでいるということですよね。最小値よりもHC5(Hazardous concentration for 5% of species)のようなデータのばらつきを考慮できる指標の方が良いとは思いました。ToxCastではACC5を計算していますからね。

 

 

 

論文のメモ: 皮脂や糞便のmRNAシーケンス解析

尿に含まれるRNAの話を以前書きました

水生生物の環境RNAという観点では、尿の他に皮膚と糞も重要なソースだろうと思い、今度は皮膚と糞のmRNAをシーケンスする話。これらはヒトの研究です。どちらもAmpliSeqという、PCRでターゲット遺伝子を増幅してからシーケンスする手法を使用しています。Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression kit。

技術的なところに興味があり、読みました。

 

Inoue T, Kuwano T, Uehara Y, Yano M, Oya N, Takada N, Tanaka S, Ueda Y, Hachiya A, Takahashi Y, Ota N, Murase T, 2022, Non-invasive human skin transcriptome analysis using mRNA in skin surface lipids, Communications Biology 5(1): 215.

花王の論文。皮脂(Skin surface lipids; SSLs) を顔からワイプして回収。そこに含まれるRNAを抽出し、2万以上(合ってる?)のヒト遺伝子をAmpliSeqでシーケンス。

AmpliSeqを用いて非侵襲的に皮膚関連の診断を行えるかどうか、の手法確立論文だと思いますが、定量PCRとの比較やreplicate間の比較、アトピー性皮膚炎の人と健常者の人とのAmpliSeqプロファイル比較などを実施しています。面白かったのは、SSLs+AmpliSeqと起源と思われる部位(表皮epidermis、皮膚腺sebaceous glandsなどをレーザーで切り取り?)との比較を行っている点。結果、表皮と皮膚腺と毛包が主な起源ではないかとのこと。

あと地味にRNaseまで見ているのが面白いです。RNaseがあるけど、脂の存在や低めのpHのおかげか、あまりRNAが分解されていないのも面白い。ただAmpliSeqのライブラリ調製後にAMPure beadsで精製すると成功確率*が上がる、という技術的な知見が一番参考になったかも。マッピング率は平均84%(健常者)または92%(アトピー性皮膚炎)でした。これは下のSchlabergら(2018)に比べると高いですね。
なお成功確率についての表現は"Use of the optimized protocol (by standardizing conditions of reverse transcription and target amplification, and adding a purification step after target amplification) led to an improvement in library production efficiency, and the transcriptome sequencing resulted in a success rate of 95%."ですが、success rateって何?ローディングが上手くできたチップの割合とか?

詳細は読みこんでいませんが、大変面白かったです。

 

 

Schlaberg R, Barrett A, Edes K, Graves M, Paul L, Rychert J, ... Leung DT, 2018, Fecal host transcriptomics for non-invasive human mucosal immune profiling: proof of concept in Clostridium difficile infection, Pathogens Immunity 3(2): 164.

Clostridium difficile感染症CDI)。上のInoueら(2022)と同様にAmpliSeqを使用して、ヒトの糞便のmRNA解析を行っています。

ヒトのアクチンとバクテリアの16S rRNAの逆転写-定量PCRを実施して、その比率が>10^(-4) 以上のサンプル(すなわちヒトmRNAの相対量が多いサンプル)のみAmpliSeqに回しています。平均して58.5%のリードがヒト遺伝子にマッピングされ、マッピング率はactin/16Sの比率に比例していました。こちらの論文では"Amplified libraries were eluted in 30 uL of low TE buffer after purification"と書いてあるもののその精製の詳細は不明。

あとヒト遺伝子へのマッピング率はTaxonomerというツールを使っています。

 

論文のメモ: 単離したミトコンドリアの応答の種間差

この記事の続き。

生物種によってミトコンドリアのswelling assayの応答が異なるという論文がありましたが、同じように種によって単離したミトコンドリアの応答が異なる話。

 

Ricchelli F, Dabbeni-Sala F, Petronilli V, Bernardi P, Hopkins B, Bova S, 2005, Species-specific modulation of the mitochondrial permeability transition by norbormide, Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Bioenergetics 1708(2): 178-186.
Zulian A, Petronilli V, Bova S, Dabbeni-Sala F, Cargnelli G, Cavalli M, ...  Ricchelli F, 2007, Assessing the molecular basis for rat-selective induction of the mitochondrial permeability transition by norbormide, Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Bioenergetics 1767(7); 980-988.

ラットに特異的に効く殺鼠剤のnorbormide。Endo体とexo体のうち、endo体のみラットに致死毒性を生じるそうです。

先行研究のRicchelliら(2005)では、ラット・マウス・モルモット(guinea pig)の単離ミトコンドリアにnorbormideを与えて、酸素消費速度やswelling、Ca retention capacity(CRC)などを調べています。酸素消費速度に差はなかったけれど、ラットだけでnorbomideによるswellingの促進とCRC低下への影響が観測されています。Swellingはシクロスポリンの共曝露によって阻害されることから、norbormideは膜透過性遷移孔(PTP)に作用しているのではないかと考察されています。

続編のZulianら(2007)では、norbormideのラットへの致死毒性がendo異性体のみで生じることから、異性体によるミトコンドリア応答の違いを調べています。こちらの論文はほとんど読んでいないのでabstractの情報ですが、どうやらPTPへの影響は異性体によって変わらなかったそうです。

 

Panov A, Dikalov S, Shalbuyeva N, Hemendinger R, Greenamyre JT, Rosenfeld J, 2007, Species-and tissue-specific relationships between mitochondrial permeability transition and generation of ROS in brain and liver mitochondria of rats and mice, American J Physiology-Cell Physiol 292(2): C708-C718.

マウスとラットの脳および肝臓のミトコンドリアを単離して、Caを投与した際のCa retention capacityとSwelling assay、膜電位の測定を実施。あまりちゃんと読んでませんが、CRCとswellingの結果がマウスとラット、さらに脳と肝臓で異なるというものらしいです。

 

 

論文のメモ: 環境DNAのメチル化

Zhao B, van Bodegom PM, & Trimbos KB, 2023, Environmental DNA methylation of Lymnaea stagnalis varies with age and is hypermethylated compared to tissue DNA. Molecular Ecology Resources, 23(1): 81-91.

環境DNAでメチル化を見た初の論文。異なる月齢4段階(1~200日)のモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)を用いて、飼育水槽の環境DNAのメチル化をbisulfite処理+HISeqシーケンスで網羅的に調べています。比較のために組織DNAのメチル化も見ています。非常にシンプルなデザインですが、環境DNAのメチル化を調べた論文は初めてとのことで、面白かったです。環境DNA界隈は個々の遺伝子のみを定量PCRで読んでいる研究は多いですが、これは網羅的に読んでいる点が個人的には良かったです。

環境DNAのメチル化は日齢によって異なるパターンを示しており、環境DNAから齢構成を推測できる可能性が示唆されています。しかし、面白いのは環境DNAと組織DNAはかなり異なるメチル化パターンを示していて、環境DNAはhypermethylatedのようです。おそらく不要になってメチル化された細胞が環境DNAの起源だからと議論されています。

本文ではほぼ議論されてませんが、mapping efficiencyが環境DNAでは5%以下、組織DNAでは18%以下(SupportingのData S1)。環境DNAではバクテリアのDNAが多くてマッピング率が低いのかと思いましたが、なぜ組織DNAでもこれほど低いのでしょうか…?

論文のメモ: 環境RNAで水生生物の生活段階を区別できる

Parsley M, Goldberg C, 2023, Environmental RNA can distinguish life stages in amphibian populations, Mol. Ecol. Resources, in press.

これまでの環境RNAの論文は、リボソームRNAミトコンドリアRNAなど、条件や生活段階で変化しないような遺伝子を対象にしてきたようですが、この論文は生活段階の違い(例:オタマジャクシとカエル)を区別できるような遺伝子(rana larval keratinとkeratin 6A)を扱っています。

実験室、野外でアフリカウシガエルとサラマンダーの環境RNAを検出。感度(=幼体がいる系から幼体RNAを検出した割合)は両種ともに85%以上。一方で、偽陽性(=親のみの系で幼体RNAを検出した割合)もわずかにあった様子。ただ親の皮膚からはこのRNAは検出されなかったそうなので、遺伝子の特異性が低いわけではなさそう。20%を超える偽陽性があったのは初回のサンプリングの時だけなので、何か技術的な問題かもしれません。

野外への適用でも幼体がいない系を試してほしい気はしますが、野外への適用もある程度可能だということを実証していますね。

 

著者は下の総説も書いています。

Stevens JD, Parsley MB, 2023, Environmental RNA applications and their associated gene targets for management and conservation, Environmental DNA 5(2): 227-239.

 

 

 

 

 

2023年に出た6PPD-quinoneの報告

ギンザケ死亡症候群の原因物質であると2020年の年末に報告された6PPD quinone(6PPD-キノン; 6PPD-Q)の話(→2020年のScience)。当時はCAS番号が割り振られていないなど、全くの新規物質でしたが環境中での検出例や動態、毒性に関する報告が色々と出てきました。

6PPD-Qに関する全ての論文を詳細に読むことは既に辞めてますが、いくつか面白かったものだけでもここにピックアップしておきます。

これまでの論文の備忘録はこちら:2021年に出た論文のまとめ2022年に出た論文のまとめ

 

Wu J, Cao G, Zhang F, Cai Z, 2023, A new toxicity mechanism of N-(1, 3-Dimethylbutyl)-N′-phenyl-p-phenylenediamine quinone: Formation of DNA adducts in mammalian cells and aqueous organisms, Sci. Total Environ., 161373.

香港浸会大学の論文。このグループの6PPD-Qに関する論文の出るスピード、すごいです。これもまだまだ速報的な論文ですが、6PPD-QのDNA adductを調べています。この人たちは、水生生物よりヒト健康に着目しているため遺伝毒性を調べているのですね。ギンザケへの高い急性毒性のメカニズムと関係あるのかどうかは不明。

ヒト細胞、緑藻Chlamydomonas reinhardtiiを> 250μg/Lの6PPD-Qに曝露してDNAを抽出し、デオキシグアノシン(dG)と6PPD-Qが結合した6PPDQ-dGの定量をMS/MSで行っています。あとスーパーで買ってきたシシャモからも6PPDQ-dGが検出されています。

 

Zhao HN, Hu X, Gonzalez M, Rideout CA, Hobby GC, Fisher MF, ... Kolodziej EP, 2023, Screening p-Phenylenediamine Antioxidants, Their Transformation Products, and Industrial Chemical Additives in Crumb Rubber and Elastomeric Consumer Products, Environ Sci Technol 57(7): 2779-2791.

6PPD-Qを発見したワシントン州のグループの論文。タイヤリサイクル製品やゴム製品のPPD類およびその環境変化体(キノン体含む)、その他の添加物(ジフェニルグアニジンDPG、HMMM、ベンゾトリアゾール類やベンゾチアゾール類)を調べています。サンプルが古いものになるほどPPD類の環境変化体/親物質の濃度は増加したそうです。これは環境変化体の方がより安定だからですね。

 

Zhao HN, Hu X, Tian Z, Gonzalez M, Rideout CA, Peter KT, ... Kolodziej EP, 2023, Transformation Products of Tire Rubber Antioxidant 6PPD in Heterogeneous Gas-Phase Ozonation: Identification and Environmental Occurrence, Environ Sci Technol 57(14): 5621–5632.

同じくワシントン州のグループの論文。6PPDの環境変化体などを調査。こちらはHu et al. (2022, ES&T Letters)の続編的な論文で、オゾンによる変化の過程を詳細に見ています。

 

Nair P, Sun J, Xie L, Kennedy L, Kozakiewicz D, Kleywegt S, ... Song D, Peng H, 2023, Synthesis and Toxicity Evaluation of Tire Rubber-Derived Quinones, ChemRxiv. DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-pmxvc.

まだ査読付き論文としては出版されていません。カナダのグループから出たプレプリント。今のところ2023年に出た6PPD-Qの(生態)毒性関係の論文では、一番面白い。

6PPD-Qだけでなく、77PD-Q・IPPD-Q・CPPD-QといったPPDのキノン体のニジマスへの96時間急性致死毒性と蓄積および代謝を調べています。6PPD-Qの96時間LC50は0.79 μg/Lですが、他のPPD-Qでは4.6~13 μg/Lでも致死影響が見られていません。そしてwhole-bodyへの蓄積のレベル(BCF)は、6PPD-Qと他のPPD-Qで大きく異なりませんでした。BCFは疎水性から考えられるよりも低く、かなり代謝されていることが伺えます。そこで、水酸化代謝物を詳細に見てみると、6PPD-Q(と6PPD)だけ、水酸化代謝物のクロマトピークが2つあり、メジャーなピーク(溶出時間が遅い方)はベンゼン環に水酸基がついていたのに対し、マイナーなピークにはアルキル側鎖に水酸基が付与されていました。他のPPD-Qは全てベンゼン環に水酸基がついていました。そこからの考察はspeculationの域を出ませんが、強く否定もできない感じ。概要を読んでから悔しくて2週間近く放置してましたが、面白かったです。

 

Greer JB, Dalsky EM, Lane RF, Hansen JD, 2023, Establishing an In Vitro Model to Assess the Toxicity of 6PPD-Quinone and Other Tire Wear Transformation Products, Environ Sci Technol Letters 10(6): 533–537.

USGSの論文。3種のサケ(ギンザケ・マスノスケchinook salmon・ベニザケsockeye salmon)を用いてin vivoで6PPD-Qの24h曝露試験をして、さらにこの3種とニジマスの細胞試験をを実施。ギンザケ(CSE-119)は線維芽細胞、マスノスケ(CHSE-214)、ベニザケ(SSE-5)は胚由来で、ニジマスRTG-2)は生殖腺由来。

in vivoの結果、感受性が高いのはギンザケ、ニジマス(文献)、マスノスケ、ベニザケの順で、これは既存研究と一致。ベニザケは水溶解度レベルで全く影響が出ていません。in vitroの結果はin vivoとおおむね一致しており、ギンザケ EC50が7.9 µg/L(代謝)、ニジマス EC5が68 µg/L(代謝、EC50ではない)で、他の2種では影響が検出されませんでした。ギンザケ細胞はcytotoxicityのEC50が6.1 µg/Lで代謝ベースのEC50よりも高く、ミトコンドリアへの影響を指摘している既往研究(Mahoney et al., 2022, ES&T Letters)とも一致しています。

興味深いのは細胞試験のEC50はin vivoのEC50よりも100倍近く高いこと。6PPD-Qのターゲット部位がどこか分からないから、この研究で用いた細胞が毒性ターゲット部位を反映できていないかも、と述べられています。

 

Greer JB, Dalsky EM, Lane RF, Hansen JD, 2023, Tire-Derived Transformation Product 6PPD-Quinone Induces Mortality and Transcriptionally Disrupts Vascular Permeability Pathways in Developing Coho Salmon, Environ Sci Technol, in press.

上と同じくUSGSから。ギンザケの胚embryoに6PPD-Qを24時間曝露して、発達や遺伝子発現への影響を調べた論文。曝露は、24時間のものを繰り返し計4回実施して、孵化した個体の卵黄嚢は除去してからRNA-Seq解析。曝露濃度は0.1~10 µg/Lで、胚は仔魚よりも6PPD-Qへの感度が鈍いようです。これは6PPD-Qに限らずよくある話。

RNA-Seq解析では、血液脳関門(BBB)が破綻するという論文(Blair et al., 2021)を受けて、タイトジャンクションの構成要素であるoccludinや炎症マーカーのTNFα・IL1β、VEGFなどに着目しています。RNA-SeqのEnrichment解析では、血管の発達、骨格系の発達や骨化ossificationなどへの影響が見られています。

 

(2023年8月3日時点ではここまで)

(2023年10月22日 追記)

Grasse N, Seiwert B, Massei R, Scholz S, Fu Q, Reemtsma T, 2023, Uptake and Biotransformation of the Tire Rubber-derived Contaminants 6-PPD and 6-PPD Quinone in the Zebrafish Embryo (Danio rerio), Environ Sci Technol 57(41): 15598-15607.

ゼブラフィッシュの4 hpfの胚に6PPDQまたは6PPDを曝露して、体内の代謝産物を調べた論文。6PPDQの曝露濃度は5~37.5 μg/L。

6PPDQの水酸化物(phase I)およびグルクロン酸抱合体(phase II)は曝露2時間後から検出されています。水酸化物は96時間後までほぼ一定濃度ですが、グルクロン酸抱合体は徐々に増加しています。48時間以後は、硫酸抱合体など他のphase II産物も検出されています。

 

(2023年11月04日 追記)

今年は現時点で6PPD-Qの総説論文が5つも出ています。もちろん内容は似たり寄ったり…と言っても別に精読はしていませんが。

Chen X, He T, Yang X, Gan Y, Qing X, Wang J, Huang Y, 2023, Analysis, environmental occurrence, fate and potential toxicity of tire wear compounds 6PPD and 6PPD-quinone, J Hazardous Materials 452: 131245.

2023年の3月に公開。

Hua X, Wang D, 2023, Tire-rubber related pollutant 6-PPD quinone: a review of its transformation, environmental distribution, bioavailability, and toxicity, J Hazardous Materials 459: 132265.

こちらは2023年の8月に公開。しかも上と同じ雑誌。

Zoroufchi Benis K, Behnami A, Minaei S, Brinkmann M, McPhedran KN, Soltan J, 2023, Environmental Occurrence and Toxicity of 6PPD Quinone, an Emerging Tire Rubber-Derived Chemical: A Review, Environ Sci Technol Letters, 10(10): 815-823.

こちらは2023年の9月に公開。カナダのグループです。

Nicomel NR, Li L, 2023, Review of 6PPD-quinone environmental occurrence, fate, and toxicity in stormwater, Ecocycles 9(3): 33-46.

謎の雑誌ですが、2023年の9月に公開。これもカナダから。

Bohara K, Timilsina A, Adhikari K, Kafle A, Basyal S, Joshi P, Yadav AK, 2023, A mini review on 6PPD quinone: A new threat to aquaculture and fisheries, Environ Pollution, 122828.

アメリカのグループから2023年の11月に公開。

 

Perplexityのような文献検索AIが発達した今となっては、このような既存文献をまとめただけの総説は個人的にほとんど意義を感じません。引用数は稼げるのでしょうが…。もちろん何か付加価値があれば意義はあると思います。

最近は、原理から考えて新しい技術や概念の可能性を語るPerspectiveのような論文の方が面白いんじゃないかと思います。自分の知っている範囲では、環境RNAでそういう論文がありました(Cristescu, 2019)。生態学会でもアイデアペーパーなるものが提案されているようですね。

 

少し話がずれましたが、6PPD-Qの話題を含む総説は「6PPD-Qの総説」という枠以外でも、下記のような2本が既に出されています。

Jin R, Venier M, Chen Q, Yang J, Liu M, Wu Y, 2023, Amino antioxidants: A review of their environmental behavior, human exposure, and aquatic toxicity, Chemosphere 137913.
Cao G, Zhang J, Wang W, Wu P, Ru Y, Cai Z, 2022, Mass spectrometry analysis of a ubiquitous tire rubber-derived quinone in the environment, TrAC Trends Anal Chem 157: 116756.

 

 

 

(2023年12月25日 追記)

Prosser RS, Salole J, Hang S, 2023, Toxicity of 6PPD-quinone to four freshwater invertebrate species, Environmental Pollution 337: 122512.

2023年の9月に公開。オオミジンコD. magnaやカゲロウ、ヒラマキガイ、イシガイに対する6PPD-Qの毒性を調べたカナダの論文。このグループは6PPD-Qが発見される前から、6PPDの毒性試験をしていましたね。

いずれの種でも有意な致死、成長阻害は見られなかったようです。なおオオミジンコは21日間の慢性試験。(なぜ28日間の慢性で繁殖影響まで見なかったのかはよく分かりません。)

 

Montgomery D, Ji X, Cantin J, Philibert D, Foster G, Selinger S, Jain N, Miller J, McIntyre J, de Jourdan B, Wiseman S, Hecker M, Brinkmann M, 2023, Interspecies Differences in 6PPD-Quinone Toxicity Across Seven Fish Species: Metabolite Identification and Semiquantification, Environ Sci Technol 57(50): 21071-21079.

2023年の11月に公開。カナダのBrinkmannらのグループから。ただアメリカのMcIntyreらも共著に入っています。6PPD-Qに対して高感受性の魚種と耐性を持つ魚種を、6PPD-Qに曝露して胆汁の代謝物濃度を定性・半定量分析した論文です。

 

Dudefoi W, Ferrari BJD, Breider F, Masset T, Leger G, Vermeirssen E, Bergmann AJ, Schirmer K, 2023, Evaluation of tire tread particle toxicity to fish using rainbow trout cell lines, Sci Total Environ: 168933.

2023年の12月に公開。スイスのEAWAGなどから。タイヤトレッドの凍結粉末(CMTT)の毒性をニジマスのエラ細胞(RTgill-W1)と腸管細胞(RTgutGC)で調べた論文。CMTTの(溶出液の)毒性の原因物質として、6PPDや6PPD-Qの毒性試験も実施しています。

結果、6PPD-Qの濃度依存的な影響は1 mg/Lを超えても見られませんでした。ニジマスのin vivoのLC50値は1 μg/Lなので、エラや腸管はターゲットの部位ではなく、神経毒性ではないかと議論されています。