備忘録 a record of inner life

やったことや考えたこと・本・論文・音楽の備忘録。 特に環境科学・生態毒性に関して。

論文のメモ: 土壌・底質汚染についてのET&C Points of Reference

最近ET&C(Environmental Toxicology & Chemistry)にPoints of Referenceなる短いコーナーが出来ました。1,000 words以内の査読なしの意見論文だそうです。そのPoRに、今年になって土壌、底質の話が何度か登場していたので、メモっておきます。

 

Neaman A, Selles I, Martínez CE, Dovletyarova EA, 2020, Analyzing Soil Metal Toxicity: Spiked or Field‐Contaminated Soils?, Environ Toxicol Chem 39(3): 513-514.

 野外汚染土壌と清浄な土壌にスパイクした場合とでは、金属の毒性が異なるという話ですが、土壌ではSediment BLM(Biotic Ligand Model)的なスペシエーションを体系的に考慮するアプローチはとられていないのでしょうか?スパイクする塩の種類が大事とは述べられていますが…。引用されている文献たちは未フォロー。

 

 

Renaud M., Sousa JP, Siciliano SD, 2020, A Dynamic Shift in Soil Metal Risk Assessment, It is Time to Shift from Toxicokinetics to Toxicodynamics, Environ Toxicol Chem 39(7): 1307-1308.

と思ったら、こちらのPoRで"Despite considerable research on this topic, there is still no clear and consistent cor-relation between metal availability, soil properties, and toxicity"とあります。
そしてその理由として、"It is possible that for invertebrates soil ingestion and subsequent changes of metalavailability in the gut explain why metal bioavailability is not always linked to toxicity"とのこと。pHや温度などの環境要因がavailabilityへ及ぼす影響はよく研究されているが、摂餌とか行動へ及ぼす影響については研究が少ない。つまり、toxicokineticsな研究ばかりでtoxicodynamicsな研究が少ない、そうです。

引用されているSmolders et al. (2010) が面白そう。

  

Kvasnicka J, Burton Jr GA, Semrau J, Jolliet O, 2020, Dredging Contaminated Sediments: Is it Worth the Risks?, Environ Toxicol Chem, 39(3): 515-515.

汚染底泥の浚渫をして、魚のPCB蓄積を減らしても、それによるヒト健康リスクの低減は、浚渫によるPM2.5発生のリスク増大をカバーできない、とのことです。元ネタはKvasnickaら(2019)

 

論文のメモ: Target Lipid Modelとその底質基準への応用

USEPAのPAHの底質基準(USEPA,2003,EPA/600/R-02/013)のベースとなっている理論であるTLMと、その底質基準への応用について。

 

Di Toro DM, McGrath JA, Hansen DJ, 2000, Technical basis for narcotic chemicals and polycyclic aromatic hydrocarbon criteria. I. Water and tissue, Environ Toxicol  Chem 19(8): 1951-1970.

 

 

平衡分配理論(EqP)とTarget Lipid Model(TLM)。EqPについては前回書きました。一方のTLMは、ざっくり書くと「narcoticな毒性は、脂質中の物質濃度がCL*に達すると、どの物質でも同じレベルの影響(例えば50%致死)が生じる」というもの。式で書くとこんな↓感じ。

 {LC50}=C_{L}^* / {K_{LW}}     (Eq.1)

KLMは脂質-水間の分配係数で、物質の水-オクタノール分配係数Kowと対数軸で比例してます。なので、

 log LC50 = log C_{L}^*  - log K_{LW} = log C_{L}^*  - ( a_0 + a_1・log K_{ow} )     (Eq.2)

と式変形できます。Eq.2によると、毒性は物質のlog Kowによって予測できると言えます。

 

TLMの仮定は、「50%致死影響につながる脂質中蓄積濃度CL*は、生物種によって異なるが、全ての物質について同じである」ことと、「分配係数KLMは、物質によって異なるが、全ての生物種について同じである」こと。

ある生物種を用いた複数物質の毒性試験データについて、x軸をlogKow、y軸をlogLC50としてEq.2の関係をプロットすると、切片がlog CL*-a0、傾きがa1となります。2つめの仮定にしたがうと、a1はどの生物種についても共通です(値はほぼ1)。

 

USEPA(2003)などの底質基準は、水のみ曝露試験のデータを元にした上記のTLMの回帰式から、95%の種を保護できる急性影響濃度を求め、Acute-Chronic Ratio(ACR)によって慢性影響の値に変換し、最終的にEqPで底質濃度に変換しています。

 

 

Redman AD, Parkerton TF, Paumen ML, McGrath JA, den Haan K, Di Toro DM, 2014, Extension and validation of the target lipid model for deriving predicted no‐effect concentrations for soils and sediments, Environ Toxicol Chem 33(12): 2679-2687.

USEPA(2003)などの底質基準では、上述のように水のみ曝露試験のデータからEqPで底質濃度に変換しています。一方、このRedman et al.(2014)は、底質スパイク試験のデータをEqP(とTLM)で(CL*に)変換して、水のみ曝露試験のデータと比較しています。

底質スパイク試験から推定したCL*(論文ではCTLBBと表記)は、水のみ試験のCL*より若干低めの分布。論文では意味のある差ではないと述べてますが、どうなんでしょう。

底質スパイク試験から推定したCL*は、底質濃度をKocで割って水中濃度に変換してから、TLMによって脂質中濃度CL*に変換した値なので、①Koc推定値にバイアスがある(実態よりも高い値を用いてしまっている?)、②底質試験系は平衡状態ではなくEqPの適用が不適切である、あたりが原因で実は意味のある差なのでは?

 

 

論文のメモ: 平衡分配法における分配係数Kocの不確実さ

前回書いたように、底質基準の設定法にはざっくり3つのアプローチがあります。

2つ目のアプローチ(EqP)では、分配係数Kdと水のみ曝露の毒性値Cw(≒水質基準値)を用いて、底生生物に影響の生じうる底質濃度Csを算出します。

C_S= {K_d}・{C_w}    (Eq.1)

このKdは通常、底質の有機物質と水との分配Kocで表現されます。すなわち、

C_S= {f_{oc}}{K_{oc}}・{C_w}    (Eq.2) 

です。この式の水中濃度Cwは、フリー溶存濃度を表してます。つまり、溶存有機炭素(DOC; dissolved organic carbon)などに収着している画分は含まれていません。例えばDi Toro 1991↓で詳しく解説されています。

Di Toro DM et al., 1991, Technical basis for establishing sediment quality criteria for nonionic organic chemicals using equilibrium partitioning, Environ Toxicol Chem 10 (12): 1541-1583. 

 

気をつけなければならないのは、見かけのKocについて。

Eq.2によって、フリー溶存濃度Cwから底質濃度Csを(またはCsからCwを)求めることができます。しかし、当たり前ですが、用いるKocが正しくなければその計算も誤ったものになります。昔書いた見かけ上の分配係数(apparent partitioning coefficient)の問題。 CwではなくCdissolved、つまりフリー態とDOCへの収着分を合計した濃度を誤って分配係数の算出に用いると、

K_{oc'} = {C_{s}}/({f_{oc}}・{C_{dissolved}}) ={C_{s}} / ({f_{oc}} ({C_{DOC}}+{C_{w}})) =  

 {K_{oc}}/ (1+ {m_{DOC}}・{K_{DOC}})     (Eq.3) 

となり、実際のKocよりも低いKoc'を求めてしまいます。ちなみにmDOCはDOC濃度で、KDOCは CDOC/Cw

 

古い実験データだとこの見かけの分配係数Koc'を求めていたりします。また、Koc'と同時にDOC濃度を報告している文献であっても、信頼できる分配係数KDOCの値がないためにKocが求められない場合があったりします。

そのため、水-オクタノール分配係数Kowとの相関や(例:DoToro et al., 1991; Karickhoff et al. 1979)、化学物質の分子記述子に基づく予測式(LSER; linear solvation energy relationships; 参考: Endo & Goss, 2014)を利用する方法などが、簡便かつエラーの生じにくいKocの取得法として用いられてます。例えば、古いですがUSEPA(2003↓)では、Kowとの相関から求めたKocを用いて、EqPアプローチによってDieldrinのbenchmarkを提案しています(もっとも実測+Kdocで求めたKoc値とKowとの相関から求めたKoc値は同じくらい)。

USEPA, 2003, Procedures for the derivation of equilibrium partitioning sediment benchmarks (ESBs) for the protection of benthic organisms: Dieldrin, EPA/600/R‐02/010. 

 

2000年代半ばくらいからは、パッシブサンプラーを用いてフリー溶存濃度を測定することが多くなったので、信頼できるKocは簡易な実験でも求められるようになりました。例えばUSEPA(2012↓)が、フリー溶存濃度の求め方をまとめてます。

もっとも、たとえ信頼できる実験から導き出されたとしても、底質の種類などによってKocの値はばらつくため(例: Hawthrone et al. 2006、上に述べた予測式の値を"代表的な値"としてEqPアプローチに用いるのは妥当ではないでしょうか。

USEPA, 2012, Equilibrium Partitioning Sediment Benchmarks (ESBs) for the Protection of Benthic Organisms: Procedures for the Determination of the Freely Dissolved Interstitial Water Concentrations of Nonionic Organics, EPA/600/R‐02/012. 

 

 

もっと本質的には、底質濃度Cs(あるいはCs/foc)ではなくフリー溶存濃度で基準が設定できれば、生物学的利用能(bioavailability)を適切に考慮できるはず。例えば昨年でた総説McGrath et al.(2019)は、Cwをパッシブサンプラーで測定した方が、底質濃度とEqPアプローチを用いた方法よりも、底質中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の毒性の有無を適切に判断できるとまとめてます。

ただ、現実的にCwのモニタリングが可能でなければ、底質濃度Cs(あるいはCs/foc)で基準を設定するのは仕方ない。

 

 

論文のメモ: 生態系保全のための農薬の底質基準

ひきつづき自宅就業中。

 

Nowell LH, Norman JE, Ingersoll CG, Moran PW, 2016, Development and application of freshwater sediment-toxicity benchmarks for currently used pesticides, Sci Total Environ 550: 835-850.

ちら見して放っていた論文。底質基準の考え方と歴史がBackgroundにまとまっていて良いです。

底質基準の決め方、主な3つ。

1) 経験的な方法。ERM(Effect Range Median)、ERL(Effect Range Low)の類。野外の汚染底質のデータを用いる疫学的な手法。野外の底質は、当然多様な物質によって汚染されてるので、注目している物質の影響のみを取り出すのは難しい。

2) 平衡分配法EqP。Di Toro 1991に詳しい。水の濃度と分配係数が分かれば、平衡状態の底質濃度も分かる。課題は、分配係数Kocの推定に不確実性があり、底質の種類ごとに異なってしまうことと、対象が非イオン性有機物に限定されること。

EqPを底質基準の設定に用いる上で満たされているべき仮定は、①水生生物と底生生物の感受性が等しい、②系が平衡状態にある、③底質の有機物濃度でnormalize可能あたり。

3)"Spiked Sediment Bioassay (SSB)"。底質に試験物質を添加して毒性試験をおこなう。課題は、試験できる生物種が限られていること。

 

この論文では、できれば 3)SSB の方法で、ただしスパイク試験のデータがなければ 2)EqP の方法で農薬の底質benchmarkを提案してます。導出されたbenchmarkの数は、2)EqP で81物質、3) SSB で48物質。なお対象としている生物群は無脊椎のみ。これはスパイク試験が無脊椎くらいでしかやられてないから。

SSBとEqPのbenchmark値の比較もしてます。どちらが高い、低い、という訳ではないけど、おおよそ100倍の差におさまってます。SSBの生物種はユスリカとヨコエビ(H. azteca)ですが、EqPの生物種は底生生物ではなく水中にいる生き物(水質基準の元になったデータ)という非対称性はあるようです。ちなみに平衡分配法で使用するKocの値は、PPDB Database、USEPAのEPI Suiteや個別の文献から取得したとのこと。

この比較をもう少し深く見てみたい(EqPによる基準導出の仮定を疑うような視点で)けど、中々面白かったです。 

 

(追記 2020.09.15)

Kocの値の選択について別の記事に書きました。

 

「すごい進化」感想

 面白いし、読みやすい。オススメです。

 

一見すると不合理な進化、例えば不完全な擬態など、はどうして生じるのか。

なんらかの制約によって進化が中途半端になってしまったのか、それとも実は自然淘汰を経て十分に適応した結果(=環境に適した形質が残った状態)なのか。

本書は、後者の考え方をベースに様々な進化の例を紹介してます。左巻きのカタツムリ(p.11)や、捕まえにくく栄養価も高くない餌に固執するクリサキテントウ(第3章)、不完全な擬態(p. 204)の話など。

特に、筆者自身の研究成果であるクリサキテントウの話が面白く、かつ「進化は制約か適応どちらで説明できるか」という大きな問いの流れの中で具体的な事例を詳細に詰めていっているのが研究者として素敵です。なぜ良くない餌をわざわざ食べているのかという疑問から、他種のメスに求愛するエラーを防ぐためという仮説を導いて、さらにオス殺しバクテリアの感染の話までつながる流れはワクワクしました。

 

 

論文のメモ: ヨコエビのサイズと細粒分への応答

絶賛自宅就業中。

 

Anderson B, Phillips B, Voorhees J, Siegler K, Trowbridge P, 2020, Size-specific responses of the amphipod Eohaustorius estuarius to clay in sediment toxicity testing, Environ Sci Pollut Res 1-8.

ここに昔書いたのと同じマイナーな話。10日の底質試験における海産ヨコエビEohaustorius estuariusの生存率は、カオリンの割合が多いほど低くなる(あまりキレイなdose-responseではないけど)。その低下の度合いは、ヨコエビのサイズが大きいほど顕著とのこと。完全に逆だろうと思ってたので意外でした。カドミウムに対する感受性はほぼ変わらないため(と言ってもヨコエビサイズが大きいほど感受性は微妙に高い)、細かい粒子特有の何かがあるのかも、という話。

ありうるメカニズムが考察で述べられてます。成体ヨコエビの方が剛毛(setae)の密度が高いために、カオリンの詰まる(くっつく?)割合が高いのでは、という説は面白い。でもそれによってエネルギー消費が増えて死ぬってのはホントでしょうか。10日間という短期間の致死がエネルギーで説明できるのかは判断保留。

論文のメモ: 化学物質の毒性作用機序(MoA)の分類と生態リスク評価

化学物質の作用機序(mode of action; MoA) 。

あるMoAは特定の生物分類群に強い毒性を示すが、別の分類群には効きにくい。一方生態系の保護は、特定の分類群だけでなく、全ての分類群をなるべく対象にしたい。MoAの情報をどのように生態リスク評価・管理に役立てるべきか。メモ。

 

 

Kienzler A et al., 2019, Mode of action classifications in the EnviroTox Database: Development and implementation of a consensus MOA classification, Environ Toxicol Chem 38(10): 2294-2304.

色んな生態毒性データベースの情報をまとめて作られたEnviroTox Databaseには、各物質のMoA情報も記載されています。

EnviroToxのMoAは、既存のMoA分類をまとめて、Specific、Narcotic、Unclassifiedの3つに再分類したものです。

既存の分類とは、Verhaar (1992, Chemosphere)、USEPA Assessment Tool for Evaluating Risk (ASTER)、OASIS、USEPAのMoAToxの4つ。VerhaarとOASISのMoAはOECD QSAR Tool Boxから取得。MoAToxの分類はUSEPAのToxicity Estimation Software Tool (TEST) から取得してます。ちなみにこれらの分類は、全て化学物質の構造をベースにしています。

 

各MoAの毒性値を見ると、specificが魚類と甲殻類に対する毒性が強く(特に甲殻類)、藻類にはあまり効かない傾向にあります。これは、MoAの分類が基本魚類のデータに基づいていることに起因するようです。

また、MoAの分類は基本急性毒性に基づいているが、"indication of a specifically acting MOA may be used as a flag for potential chronic sublethal activity"とも述べられてます。

 

 

Verhaar HJ, Van Leeuwen CJ, Hermens JL, 1992, Classifying environmental pollutants, Chemosphere 25(4): 471-491.

オランダのユトレヒト大学のVerhaar氏らによる4分類。inert・less inert・reactive・specifically actingの4つ。Inertはnonplora narcopsis、less inertはpolar narcosisのことです。化学物質の構造で分類し(ただしspecificだけは知識でカテゴライズ)、各分類の物質の毒性レベルがlog Kowで予測されるレベルからどれだけ乖離しているか(Toxic Ratio)を、グッピーPoecilia reticulata)の急性LC50値で評価しています。

Toxic Ratioは reactive > specifically acting > less inert > inert。reactiveとspecifically actingのTRは裾が広い。

 

 

Hendriks AJ, Awkerman JA, de Zwart D, Huijbregts MA, 2013, Sensitivity of species to chemicals: Dose–response characteristics for various test types (LC50, LR50 and LD50) and modes of action, Ecotoxicol Environ Safety 97: 10-16.

急性LC50、LR50、LD50で種感受性分布(SSD)を描き、その平均値と標準偏差をMoAごとに比較した論文。

SSDの試験種数が増えると平均と標準偏差のばらつきは共に減少していき、specific/reactiveなMoAほど平均は小さく、標準偏差は大きくなります。Specificなものはある分類群には効くが、別の分類群には効かないため偏差が大きくなるわけですね。

Suggestionは、試験生物種が少ない時SSDを描いてもその値の信頼性は低いため、MoAの同じ物質と比較したら良いんじゃないかというもの。

 

 

Awkerman JA, Raimondo S, Jackson CR, Barron MG, 2014, Augmenting aquatic species sensitivity distributions with interspecies toxicity estimation models, Environ Toxicol Chem 33(3): 688-695.

この文脈では少し毛色が違うかも。

化学物質に対する感受性の種間外挿を行うツールICE (Interspecies Correlation Estimation) を使って推定した毒性値をSSDに入れたらどうなるか、という論文。入手可能な生物種のデータを全て入れて推定したHC5(5% Hazard concentration; 5%の種が影響を受ける濃度)をreference HC5とすると、ICEによる推定値を含んだSSDのHC5とreference HC5との差はほぼ10倍以内に収まったとのこと。

MoAごとの違いを見ると、refererence HC5とICEによる推定を含んだHC5との差のばらつきは、なぜか有機リンで一番大きい。

論文のメモ: RNA-Seqの前処理にトリミングは必要ない

タイトル通り。

これまで普通にトリミングしてました。確か(クオリティ)トリミングあり/なしでde novoアセンブリの結果があまり変わらないとかは自分で確認しましたが、mRNA定量への影響はそう言えば検証してませんでした。

こういう「一部では常識」みたいなテクニックを論文化してくれるのはありがたいです。

 

 

 

Liao Yang, Wei Shi, 2019. Read trimming is not required for mapping and quantification of RNA-seq reads, bioRxiv, 833962.

上のツイートの論文。遺伝子発現の定量化へのトリミングの影響を調べた既往研究としてDel Fabbroら(2013, Plos One)、Didionら(2017, Peer J)、Williamsら(2016, BMC Bioinformatics)が引用されてますが、相反する結論もあるため、個々の遺伝子についてmore rigorousに調べる必要がある、とのこと。
そもそも多くのマッピングツールは、マップされたリードの端が上手くアラインメントされていなければ除去する(soft clipping)のでアダプターを予め除去する必要はないとのこと。

この論文では、マッピング定量化ツールにRsubreadを*1トリミングツールにTrimmomaticとTrimGaloreを使用。ここで言うトリミングとは、アダプタートリミングとクオリティトリミングの両方のこと。そして定量PCRによる発現量との相関などを見ています。

結果、Rsubreadはsoft-clipによってアダプターの90%以上を除去でき、しかもトリミングの有無によるマッピングの差はトリミングツールの差と同程度だったそうです。定量PCRとの比較からは、トリミングをすることでむしろ発現定量結果は微妙に不正確になってしまうとのこと。

  

Williams CR, Baccarella A, Parrish JZ, Kim CC, 2016, Trimming of sequence reads alters RNA-Seq gene expression estimates, BMC Bioinformatics 17(1): 103.

上の論文で引用されていた研究。ざっとしか読んでません。要はクオリティートリミングを厳しくし過ぎると短いリードが生まれて、そのリードが不適切な配列にマッピングされるから良くない、と言う話。なのでトリミング後のデータは、リード長でフィルタリングしようとも述べてます。マッピングはTopHat2使用。

また、古いRNA-Seqデータは低クオリティーだったりアダプターがコンタミしていたりするため、トリミングすることも有用かも、とのこと。

  

MacManes MD, 2014, On the optimal trimming of high-throughput mRNA sequence data, Frontiers in Genetics 5: 13.

これはトリミングが(マッピングじゃなくて)de novoアセンブリへ与える影響について。アブストくらいしか読んでませんが、クオリティートリミングするにしてもPHRED score <2や<5を推奨。

 

*1:ちなみにこの筆者たちはRsubread(とfeatureCounts)の開発者。

論文のメモ: 生態リスク評価におけるEvolutionary Toxicology

化学物質の汚染にさらされたとき、ある生物種の個体群(または複数種の集まりcommunity)が化学物質に対する耐性を持つことは良く知られています。殺虫剤に耐性を持つ蚊や抗生物質の効かない薬剤耐性菌などが特に有名ですね。

耐性を獲得するメカニズムは、耐性のある個体の選択、遺伝子の変異を伴うもの(適応adaptation)、そして表現型の可塑性などがありますが、

 

Oziolor EM, DeSchamphelaere K, Lyon D, Nacci D, Poynton H, 2020, Evolutionary Toxicology—An Informational Tool for Chemical Regulation?, Environmental Toxicol Chemi 39(2): 257-268.

ET&C誌のPerspective。アカデミア、行政、産業界からそれぞれ 1名ずつが、Evolutionary Toxicologyの研究の現状と生態リスク評価(ERA)におけるEvolutionary Toxicologyの位置づけ(?)や可能性について述べています。

ざっと読んだところ、ERAにおけるEvolutionary Toxicologyの課題は、予測可能なのかということと、解釈が困難であることの2点でしょうか。

まず技術的な課題。要因(多数の生物種や化学物質、濃度レベル、曝露期間、個体群のサイズ、遺伝的多様性の度合い  )が多様な中でevolution(というか適応?)の程度をどこまで一般化できるか、予測できるか、というもの。定量化の指標には、例えばPICT(Pollution Induced Community Tolerance, 後述)や遺伝的多様性の損失度合いなどが挙げられてます。

次に、ERAにおいてもっと本質的な課題。そもそもEvolutionary Toxicologyを考慮する必要・意義があるのか、あるとすればどのような指標に基づいて評価するのが良いか、群集communityなど高次のレベルに影響はあるのか、など。現象としてEvolutionary Toxicologyがあるのは認めるけど、それって対策するほどなんか?ってことですね。確かに上に挙げた遺伝的多様性の損失などは、リスク管理の目標に現実的にはなり得ない気がします。遺伝的多様性の損失は他のストレス要因に対する適応度が下がる、と考えれば混合物mixtureのリスク評価の1つの指標にはできるかもしれませんが、現状道のりは遠そう。(一方、PICTは光合成活性の低下など群集の機能に着目している点で意味付けはしやすいでしょうか?実際に意味があるかはさておき。)

あとはメモ。数世代で個体群の感受性が低下することは実験的に例がある(Xie & Klerks, 2003, ETC; Ward & Robinson, 2005, ETC)。一時的な曝露(農薬など)によって耐性が生じることもあるため(Major et al., 2018, Evol Appl)、野外調査では要注意。

 

 

Schmitt‐Jansen M, Altenburger R, 2005, Predicting and observing responses of algal communities to photosystem II‐herbicide exposure using pollution‐induced community tolerance and species‐sensitivity distributions, Environ Toxicol Chem 24(2): 304-312.

PICTとSSDを比較(?)した論文。

PICTの中身をようやく理解しましたが、汚染によって感受性の高い生物種が減り代わりに耐性のある種が増えることで、群集全体の応答の変化(例えば光合成活性を対象にしているのですね。別に遺伝子の変異などは考慮していないようです。

なので、種の感受性の変化を想定しないPICTは、従来的なリスク評価の枠組みで考慮可能。SSDと比較して論じることもできます。そしてこの論文のように、SSDで見たときに感受性の高い種を守れば、PICT的にも影響が見られないことになります(ただし両者の構成種が同じでかつ、種間の相互作用がないものとすれば)。

上の総説のEvolutionary Toxicologyは(micro)evolutionによってある種の感受性が完全に変わってしまうことを想定しているので、PICTはちょっとノリが違うかも。

 

論文のメモ: 種の感受性分布における自己相関の補正

種の感受性分布(Species Sensitivity Distribution; SSD)。

化学物質に対する生物種の感受性は、経験的に対数正規分布にフィットすることが知られています。その性質を利用して累積分布関数で種の感受性を表現したのがSSDです。SSDを利用して5%の種が影響を受ける濃度、すなわちHC5(5% Hazardous Concentration)等を求め、リスク評価をおこなうことができます。

 

Moore DR, Priest CD, Galic N, Brain RA, Rodney SI, 2020, Correcting for phylogenetic autocorrelation in species sensitivity distributions, Integrated Environ Assess Manag 16(1): 53-65.

SSDはデータが独立であることを仮定しているが、多くの解析でその仮定は守られていません。近縁種は化学物質に対する感受性も似通っていますが、近縁な複数の種のデータを一緒くたにして解析することは珍しくありません。つまり自己相関(autocorrelation)のあるデータがそのまま頻繁にSSDに持ち込まれています。

殺虫剤クロルピリフォスと除草剤アトラジンを例に、自己相関を考慮して求めたHC5と考慮していないHC5とを比較したのが上記論文です。具体的には、自己相関があると有効サンプルサイズが減少するため(neff -> neff')、neff'を用いて対数正規分布の分散を求め直し、補正しています。遺伝的距離をもとに自己相関の程度を求め、neff'を求めているのですが詳細は正直理解できませんでした。

果、もともとのサンプルサイズが30個ほどある場合には、自己相関の考慮によってHC5の値はほぼ影響を受けませんでした(Fig.3の赤と青が完全に重なっている…)。サンプルサイズが9個の場合でも自己相関がなければ同様。サンプルサイズが少なくて自己相関の高い極端なデータセットの場合にのみ影響があるとのこと。

 

USEPAが開発している、DNA配列から種の感受性を予測するプログラムSeqAPASS(LaLone et al., 2016)は、このような補正に使用されるのが現実的な落としどころかと思ったり。でも論文の結論は地味でした。